佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER

サードダンパー 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

posted2007/10/11 00:00

サードダンパー<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

 「同じようなことが何度も起きていて残念です」

 予選を20位で終えた佐藤琢磨の目に、独特の強い光はなかった。

 「午前中は金曜日の夜からクルマを煮詰めたこともあって、走り出しは悪くなかったんです。でも、その後タイムが上がらなくなって、なぜか後退。クルマの動きに異常はないんですが、タイヤのグリップがない。タイヤ圧もチェックしたんですが、タイヤ温度がアンソニー(デイビッドソン)に較べて二桁も低く、グリップが戻らないんです。新品タイヤでも同じことで、タイヤの温度がワーキングレンジに入っていない」

 チームは必死に原因を探るが、やれるのはデイビッドソン車と異なるデータがないか調べることぐらいで、マシンは予選が終れば車両保管に入るから、決勝に向けてセッティングを変えることもできない。そのデイビッドソン車のデータも、最近は琢磨車とはマシン・セッティングがかなり変わって来てしまっているので、直接的な比較にはならないのだという。振り返って見ると、琢磨はドイツから6戦連続でQ3止まりである。

 そういえば、似たような現象はイギリスでも起きていた。あの時の予選も21位でQ2に進むどころの騒ぎではなく、まともに走ってシーズン最悪の結果。

 「正直、なぜこんなにペースが上がらないのか分かりません。全体的なバランスは悪くないものの、マシンにグリップ感がなく、滑る。それもアンソニーと2台一緒の現象なら納得も行くけど、ボクのクルマとアンソニーのでは差が大き過ぎる。フツーじゃない。こうなったら、Tカー(スペアカー)に代えることも考えなければならない」と、首を傾げていたものだが、そうしてみると、イギリス後もチームはその根本原因をつかむことも、解決することもできなかったことになる。

 「こうなったら台風に来てもらって、仲良くするしかないですね(笑)」と、琢磨は苦笑したが、マシンのハンデを少しでも帳消しにするためにウエットを渇望するのは、1週間前の富士スピードウェイとまったく同じ状況でもある。

 レースのスタートはウエット・コンディション。しかし富士の時とは異なって路面に溜まっている水が少ないためにタイヤは浅溝のスタンダード・ウエット。激しい水煙の中を、佐藤琢磨はインサイドから1コーナーに向かった。

 オープニングラップ16位、2周目14位と、一気にポジションアップ。しかし、佐藤琢磨の実質的なレースはそこまでだった。6周目、急にマシン後部ギヤボックス上部に着く車高安定装置であるサードダンパーが壊れてしまったのだ。

 「そうなるともうこうですよ」と、琢磨は手でマシンが上下にピッチングするジェスチャーをしてみせる。車高のコントロールがままならないからマシンの底を路面で打ったり、ブレーキングの安定性がなかったり、加速時には腰砕けのような現象も起こる。チェッカーは1周後れの14位で受けた。

 タイヤのグリップ不足はサードダンパー・トラブルによって原因究明の糸口が隠された恰好になったわけだが、今後すべての循環が良くなり、すべてがうまく噛み合ったにしても、残るレースは10月21日の最終戦ブラジルのみ。待ち続けた新リヤ・ウイングが届くはずの、インテルラゴスの戦いに注目したい。

佐藤琢磨

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