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福浦和也 理想のヒットを求めて。 

text by

鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

PROFILE

posted2006/08/17 00:03

SPECIAL FEATURES

[進化する打撃職人]福浦和也 理想のヒットを求めて。

鷲田康=文

text by Yasushi Washida

 思い切って空振りができる。

 イチローは自分の調子の一つのバロメーターにわざとバットとボールをコンタクトしない技術をあげている。打ち出しても、打つべきボールではなければ、わざと空振りができるテクニック。このちょっと特別な細工を思い通りに使えれば、凡打の確率はかなり減少するという。

 「僕の場合、ファウルですね」

 千葉ロッテマリーンズの福浦和也はポツリと言った。

 「レフト線からちょっとスタンドよりのゾーンにファウルを打てることかな。いいときはカットしにいったボールがライナー性の当たりでその方向に飛ぶ。悪い時っていうのは、後ろ方向やななめ後ろ、三塁ベンチ側に飛んでしまう。そういう時はあんまりよくない。ずれているんです」

 バッターにとって大切なことの一つに、いかに自分のタイミングでボールを捕らえるかというのがある。福浦自身も常に意識しているのは「タイミング」と言い切るが、このプレーヤーの持っている時間感覚は、普通のバッターが持つ“常識”とはちょっとかけ離れた特別なものなのだ。

 「バックネットに飛ぶファウルっていうのは普通はタイミングが合っているっていわれますよね。でも、ボクの感覚からいくとそれはダメなんです。タイミングが合っていない。遅れているファウルなんです」

 福浦の時間感覚は、平均的なプロ野球選手よりも0.00何秒か早いということだった。通常はタイミングが合っているとされる真後ろへのライナー性のファウル。しかし福浦の感覚からすれば、それは振り遅れという違和感につながっている。

 自分の気持ちいいタイミングでボールを捕らえるとすれば、それよりほんの瞬間だけ早くバットとボールはコンタクトしなければならない。そうなれば打球は自然に自分の左前方に飛ぶ。あとはバットがボールを捕らえる角度を操ることで、打球方向を整えていく。

 「カットする」と決めればバットを少しだけ開いた形でボールに当てる。そのときに打球が飛んでいかなければならない場所は、レフト線から少しだけファウルゾーンに入った場所なのだ。

 習志野高からロッテにドラフト7位で入団してから12年。入団当初はイチローばりの“振り子打法”で注目を集めたが、本当にその素質を開花させたのは、独特の時間感覚に目覚めてからだった。

 「振り子というか、タイミングをとるにあたって、やっぱり足をあげすぎると、体重が後ろにかかってしまうという傾向がありました。それをなくすために足上げを小さくしたというのがまず一つ。あとは、やっぱり一軍のピッチャーの速いまっすぐと変化球についていくために、よりトップに近い形から構えて打つようにした」

 構えのグリップの位置をよりトップに近いところにひきつけて、そこからタイムロスを少なくバットを立てて出せるフォーム。その形を完成させたとき、福浦は自分のタイミングで投手の投げ込むボールを引きつけて、さばけるようになっていった。

 もともとバットの操作には天才的な感覚があった。

 「調子いい時は、そこに狙ってヒットを打てます」

 福浦はいとも簡単に言い切る。

 「実戦でも。あの、どんなボールでも、どんなボールっていうとおかしいですけど……。狙ったとこには打てますね、調子がいいときは。でも、ダメなときはセカンド方向へのゴロが多くなる。やっぱり打ちたくて打ちたくて、打ち急いでしまう。ボール球に手を出してしまう。変化球を前で打たされて、ひっかけてセカンドゴロとか。全体重が前にいってしまって、あとはバットのヘッドが弱い状態で、それでも当てにいきますから。で、当たるんですよ、やっぱり(笑)。ファウルにできない。いい時はそれが崩されても、ポンってファウルにできるんです」

 自分の時間さえキープできれば、レフトのライン際に鋭いライナーを落せる自信は常に持っている。

 「理想はインコースの難しい球をショートの頭の上にライナーで打つ。まず三振っていうのはしたくないでしょうね、たぶん、基本的には。やっぱ打ちたいんですよね。だから、追い込まれたら反対方向。基本なのかもしれないですけど、それは常に頭の中に持っています。バッティングとしてはゆっくり早めに始動して……これは難しいですけど。なおかつ真っ直ぐにあわせて、スーッとひきつけて、ボールの内側を上から叩く。これができたらライナーでショートの上をいきますね」

悩まされてきた腰痛。今季、新たな挑戦へ。

 だが、その理想のスタイルを阻む大きな障害があった。腰痛に悩まされてきた。2003年の140試合を頂点にここ2年は128試合、114試合と出場試合数が減ってしまっている。それにつれてシーズン安打も172安打から159安打、130安打と減少してきている。より多く試合に出ることは、より多くの安打を打つことにつながる。そのためにはどうしたらいいのか。今年のテーマはそこにあり、そのためにこれまでのバッティングを捨てるという決断をした。

 「去年までのフォームだとやっぱり色々と限界があった。前の打ち方だとどうしても腰が張ってしまう。1シーズン通して試合にでるにはと考えて、いままでと違うものでやっているんです。だから今までのバッティングと今年のバッティングは僕の中でちょっと違います」

 徹底した力感の排除だった。

 「まず今までは右足だけを動かしてタイミングをとっていたんですけど、それだと左足に力が入ってたわけです。両足でリズムをとることによって上体もリラックスできるんで、そこをまず変えたというのが一つ。これまでは力を伝えようとしてたんですよね。でも、それを今年はほんと自然体にして自然にリズムをとれるようにした。グリップもできるだけゆるく握ってインパクトの瞬間にきゅっと絞る感じですね」

 5年連続3割という実績の代わりに手にしたいものは、やはり1年間を通じてできるだけ多くのヒットを打ち続けることだった。そのためにはどれだけ試合に出られるか。試合に出ることさえできれば、安打を積み重ねられる自信があるからこそ、福浦は新しい世界に踏み込む決断ができた。

 「この世界はほんと日に日にバッティングフォームも変わりますし、やっぱり4月と現時点でのフォームも違う。1年1年理想を求めるというか、どうしてもより打ちたいんです。なかなかうまくいかない時もありますけど、より理想を求めていきたい。去年も打っていましたけど、自分じゃ納得のいかないヒットが多かった。そういう意味では今年は自分なりに納得したバッティングが出来ていたというのは確かです」

 7月16日の西武戦。福浦は左手甲に死球を受け、左第二中手骨の骨折で戦列を離れることになった。復帰までは1カ月近くがかかる重症だった。

 シーズンを通して打ち続けるという目標は、このアクシデントで断念せざるを得なくなったが、それでも今年の挑戦に確かな手ごたえは失っていない。

 「凡打してもその中身がわかるようになりました。悪いなりに悪いことが分かるようになっています。ああこうやってセカンドゴロを打ったんだって」

 常に自分自身の姿が映像としてイメージできるようになれば、スランプの期間も短くなる。

 いまは思い切って凡打ができる。

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