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今岡誠「打点王の憂鬱」 

text by

石田雄太

石田雄太Yuta Ishida

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posted2005/11/10 00:00

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[不振の真相]今岡誠「打点王の憂鬱」

石田雄太=文

text by Yuta Ishida

 甲子園が荒れていた。

 ため息、怒号、脱力感。ジェット風船を割る音がそこかしこに響き、やがて喧嘩も始まった。殴られて、流血した男が叫ぶ。

 「いまおかぁ、たのむぞぉ(泣)」

 屈辱的な3試合連続の10失点を喫した直後、第3戦の7回裏。甲子園を支配する殺伐とした空気の中、今岡誠はこの回の先頭バッターとして、打席に入った。そのとき、ふと彼から聞いたある言葉が蘇ってきた。

 「まぁ、言うたって、ゲームが始まったら僕ら、打席には立たんといけませんから。野球って毎日するスポーツだから、やらなアカンときにガッと集中できなかったらダメかな、と思います。僕の場合はとくに、ゲームが始まったら集中できる精神状態でおらなアカンのです。それも一年間、ずっとね」

 果たして今岡は、こんな寂しい場面でも集中できているのだろうか。147打点は、ランナーをおいた場面で巡ってきた幾多のチャンスの賜でもあった。ところがこのシリーズ、金本の不振もあって、今岡がランナーをおいてバッターボックスに立てたのは、第3戦までで言えば、10打席のうちたった一度。第1戦の6回表、ツーアウト三塁の場面だけだった。

 今シーズン、走者なしで.225、走者を置いて.332、それが得点圏なら.371と、チャンスになればなるほど、グレードをあげていったポイントゲッター。「ここで打ってくれという場面で、ゴロでもフライでも1点が入ればいいと思える5番は集中できる」と話していた今岡だったが、このシリーズ、彼はゴロやフライではダメな場面ばかりで打席に入り続けた。返すことに徹していたバッターの前に、ランナーが出ない。拠り所を失った今岡は、ヒットかホームランを打たなければと、余計な力が入ってしまっていた。

 狂い始めたきっかけは、唯一のチャンスだった、その第1戦の6回、今岡の第3打席にあったのではないかと思う。ピッチャーは清水直行。その前の打席もすべてストレートで攻められ、見逃しの三振に倒れていた今岡は、ツーアウト三塁のチャンスで打席に立った。初球、インコース胸元にストレート。2球目は、さらに抉るように顔のあたりに投げ込まれたストレート。珍しく、今岡が怒っているようにみえた。

 そして、3球目。

 投げ込まれたのはインコース、懐に食い込んでくるストレート。半ば、強引に打ちにいってセンターフライに倒れた今岡の中で、この瞬間、何かが壊れた気がした。マウンドで雄叫びをあげていた清水は、あの打席の意図をこんなふうに話した。

 「インハイ?― 当然です(笑)。あそこは、オレたちはいくぞ、という気持ちを相手に意識させないといけない場面でした。だから3球とも、インコースの厳しいところを狙ってまっすぐを投げたんです。とくに僕は第1戦でしたし、最初に行く者が僕らの意気込みを示さないといけない」

 つまりは、宣戦布告だったのだ。

 実際、第2戦の渡辺俊介に対しても、決して速くないインサイドのまっすぐに腕を畳みきれない今岡がいた。1対10で打席に立った第3戦の7回も、結局はピッチャーゴロに倒れた。第4戦では、インハイをムキになって振りに行く背番号7もいた。その結果、外の変化球をひっかけてのダブルプレーあり、外のまっすぐにバットがピクリとも動かない見逃し三振あり──シーズン中にはあり得ない、無惨な姿だった。

 14打数2安打、打点はわずかに1。

 「悔しいけどね、負けはね。でもこの負けを受け止めてね、(ロッテは)いいチームやと思うし……また日本一へ、がんばります」

 4連敗で敗れた直後、ロッカールームへの階段を上がりきったところで足を止めた今岡は、穏やかなトーンでそう話した。

 背筋は、ピンと伸びていた。

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