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故郷ニューヨークに戻った天才少年。 

text by

宮地陽子

宮地陽子Yoko Miyaji

PROFILE

posted2005/02/03 00:00

 彼を初めて見たのは1年前、ニュージャージーで行われた高校のトーナメントでのことだった。会場の一角がざわつき始めたと思ったら、彼、セバスチャン・テルフェアが入ってきた。

 といっても、最初、本人の姿は見えなかった。それくらい大勢の人たちに囲まれていたのだ。人垣の中心にいたテルフェアは、まわりから次々と差し出されるボールやプログラムに慣れた手つきでサインをしながら、ゆっくりと前に進んでいた。彼が動く速度にあわせて輪も動き、さらに膨れていく。その様は、ハーメルンの笛吹きの寓話を思い出させた。

 テルフェアは子供のころからニューヨークの有名人だった。現ニューヨーク・ニックスのステフォン・マーブリーの従弟で、テルフェア自身も小学生のときから天才少年と言われ、常に注目を浴びてきた。

 コートの上でも存在感はずば抜けていた。一瞬のフェイクでディフェンスを抜き去り、ゴール下に切れ込む。そのプレーに、同年代の高校生たちは感嘆のどよめきをあげていた。

 あれから1年、今、テルフェアはニューヨークから見てアメリカ大陸の反対側、オレゴン州ポートランドにいる。去年6月のNBAドラフトで、ポートランド・トレイルブレイザーズが1巡目13位で指名したのだ。自分をスーパースターと崇める街を離れ、自分より一回り年上の選手たちに混じって全米を遠征してまわる毎日。しかも同じポジションにデイモン・スタッドマイヤー、ニック・バン・エクセルとベテラン選手が2人もいるため、出場時間も限られている。

 「今は自分の番が来るのを待つだけだ」とテルフェアは言う。その表情には、意外なほど焦りは見られない。「別にフラストレーションは感じない。このままずっと同じ状態ではないという自信があるからね」

 1月9日、テルフェアはNBA選手として初めて故郷ニューヨークに戻った。そしてマディソン・スクエア・ガーデンで8歳上の従兄と対戦した。23分間出て2点、7アシスト。放ったシュート6本のうち5本を外し、ミスで4回ボールを失い、そして、試合に負けた。

 「次はもっといいショーを見せるよ」

 ニューヨークの家族や友人たち、そして自分自身にそう約束すると、テルフェアはまた西海岸に戻っていった。

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