'99年、春。初めて紫紺の優勝旗がもたらされたが、いまだ夏の優勝は叶わぬ沖縄県。なぜ彼らは、あと一歩勝ちきることが出来ないのか。
古豪の練習と地方大会を密着取材。島国ならではの問題――。そのひと言だけでは片付けられない、課題と魅力が確かに見えてきた。
古豪の練習と地方大会を密着取材。島国ならではの問題――。そのひと言だけでは片付けられない、課題と魅力が確かに見えてきた。
こん、ちわー。
遥か彼方の選手たちが一斉に帽子を取って頭を下げる。陽射しが照り返して、眩い眼下のグラウンドには、真っ白なユニフォームを着た130人の野球部員が散らばっている。
こん、ちわー。
こん、ちわー。
ちわー、ではない。こん、ちわーなのだ。こん、が遠くからでもハッキリと聞こえる。高校球児は、ちわー、とか、ちわーす、だと思っていたのに、興南球児は全員が、こん、ちわー、だったので、やけに新鮮だった。
興南の我喜屋監督は特等席から選手を見つめる。
レフト側にある体育館の脇から、かなりの段数がある石段を下りきったところに、グラウンドはある。監督はどこだろう。そう訊ねると、一人の野球部員が教えてくれた。
「監督は、いつものところです」
彼が帽子を持ったままの右手で指し示したセンターの方向を見てみると、レフトからセンターにかけて観客席のように横たわる石段の最上段に、古ぼけたスコアボードがあった。その前にイスが一つ、置かれている。そのあたりは、木陰になって陽射しが届かない。風通しもよく、涼しそうだ。
「あそこは、監督の特等席です(笑)」
興南高校は、沖縄・那覇の新都市地区を見渡せる高台にある。眼下にグラウンドを見渡せる特等席に、我喜屋優監督は足を組んで座っていた。背筋がピンと伸びていて、とても還暦が近い歳には見えない。容赦のない陽射しの中、センター最上段の特等席まで、ぜえぜえと息を切らして上っていった。すると、我喜屋監督が声を掛けてくれる。
「どうぞ、ここらは涼しいですよ」
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photograph by Tamon Matsuzono