日本球界を代表する左腕2人が、アメリカに渡った。多彩な投球術でWBCでも活躍した「投げる哲学者」と、史上最年少で通算200セーブを挙げた「ドクターK」は、いかなる目標を掲げ、新たな舞台に挑むのか――。
2024年、アリゾナの春。2人の日本人ルーキー投手が、メジャーの過酷な戦いに挑むための準備を着々と整えている。カブスで先発3番手として計算される今永昇太と、パドレスで勝利の方程式の一員になることを期待される松井裕樹だ。
言うまでもなくメジャー移籍は、適応の連続となる。異文化での新生活、滑るメジャー公式球、固く傾斜のきついマウンド、1年目はすべきことが特に多い。
それなのに2人からは、まるで何年もメジャーで戦っているかのような落ち着きさえも感じる。それは彼らが周囲と積極的にコミュニケーションを図り、言葉の壁を感じさせないからだろう。
キャンプ初日から積極的にチームメイトとコミュニケーション。
松井はキャンプ初日、流暢に報道陣に英語、スペイン語、韓国語を話した。この事実は選手間にも広がり、ナインとの距離を縮めた。同僚のダルビッシュ有が言う。
「(松井は)ずっとニコニコして、いつも自分からみんなとコミュニケーションをとっている。なんの違和感もなくクラブハウスに普通にいる。もう何年もここにいるみたいな感じですよ」
ある日、松井を取材していると、スペイン語を操るブルペン陣5人との会話が聞こえてきた。英語も交えながら、彼らは実に和気あいあいとしていた。
「『CHICLE(チクレ)』って何か分かるか。スペイン語でチューイングガムのことなんだ。日本語ではなんて言うんだい?」
松井は笑いながら答えた。
「ガムはガムだ」
あっという間に笑顔が広がった。返す際の間合い、表情も堂に入っている。
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photograph by Yukihito Taguchi