開幕直前までテレビ放映が決まらず、期待値は決して高くなかった。それでも蓋を開ければ、魅力的なサッカーが人々の心を掴んだ。前回大会を超えるベスト8。その過程で彼女たちが抱いた危機感と身に付けた一体感の正体とは何か。指揮官と守護神が明かした。
なでしこジャパンの守護神、山下杏也加が私物のiPadを起動させると、壁紙として1枚の写真が映し出される。
「スウェーデンに負けた後に撮った写真です。この悔しさを忘れたくないと思って、壁紙に設定しているんです」
今夏のW杯期間中、試合が終わると、サブ組も含めた選手全員がピッチ上に集まり、記念撮影することが恒例になっていた。負けはしたが、これが大会最後の1枚である。山下も、周りの選手たちも、懸命に口角を上げようとした。でも、できなかった。
「やれることはすべてやった、準備してきたものはすべて出しきったと言える大会でした。だから笑顔で終わろうと思ったんですけど……自分の顔を見返すと、全然笑えてないですね」
W杯ベスト8。16強で終わった前回大会の成績を超え、グループステージでは今大会の優勝国となるスペインに快勝した。攻めてはボランチの長谷川唯、長野風花を軸にテンポの良いパスワークで敵陣に潜り込む。たとえ押し込まれても、熊谷紗希を中心とした堅い守りではね返し、宮澤ひなたら快足アタッカーが鋭いカウンターを繰り出す。その魅力的なサッカーは、現地ニュージーランドでも称賛された。
充実感は、あった。それでもスウェーデン戦後に悔しさが滲み出たのは、心の中に抱える日本女子サッカーへの“危機感”からだろう。山下は5カ月前の状況を思い出しながら、本音を漏らした。
「悲しいな、とは思っていましたね。もしもこのままテレビで見られなければ、結果だけで判断される。女子サッカー離れがさらに進んでしまうんじゃないかって、プレッシャーは感じていました」
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photograph by JFA / AFLO