先の3月春場所は、全休した横綱照ノ富士にくわえ、綱取りに挑んだ大関貴景勝までもが無念の途中休場。昭和以降では初めて、横綱大関不在の本場所となってしまった。“大関に一番近い男”と見られていた関脇若隆景も途中休場し、再起は7月名古屋場所になるだろうと目されている。
そんななか、新関脇の霧馬山が初賜杯を抱き、きたる5月夏場所では大関取りがかかることとなった。大関昇進は3場所合計33勝が目安とされているが、霧馬山は1月初場所で11勝、続く春場所で12勝ゆえに、10勝すれば昇進基準を満たすことになる。モンゴルの遊牧民として育ち、草原で鍛えられた強靭な足腰。左四つの形から繰り出す投げ技を得意とし、すでに大関昇進を射程圏内においている。
ちなみに、江戸時代の昔から大関という地位は、東西に最低でもひとりずつ置かれるという決まりがある。正代や御嶽海が陥落し、貴景勝がひとり大関となった2023年の1月初場所、3月春場所は、照ノ富士が「横綱大関」という呼称で番付上に載ることとなった。
しかし、照ノ富士は両膝に爆弾を抱えたまま横綱を張り続け、いつ引退の日を迎えてもおかしくない状態だ。来場所の貴景勝もカド番大関となる。番付上はもちろんのこと、興行的にも「新大関・新横綱待望論」が出るなか、期待され、常に名前が浮上する存在が朝乃山だ。
大関時代に1年間の謹慎休場処分を受け、番付は三段目まで降格。復帰後は順調に白星を重ね、先の場所では十両優勝を逃したものの、来場所は幕内力士として復活する。場所後の春巡業では霧馬山はじめ休場者が多いため、幕内力士に交ざって参加した朝乃山は、「2年ぶりに幕内で相撲が取れる。この巡業でしっかり稽古し、来場所に挑みたい。出るからには優勝争いに加われるよう頑張りたい」と意気込みを語っている。
大関時代の力強さはまだ戻っていないものの、189cm、171kgの堂々たる体躯で、右四つの正攻法が身上だ。正統派四つ相撲といわれる朝乃山は、長い謹慎期間で“心”を見つめ直したという。
まずは大関の地位に戻り、さらなる心技体の充実で、周囲の大きな期待に応えられる日が来るか。