両横綱が不在の九月場所。大関2場所目、優勝候補筆頭として期待と注目を一身に集めていた朝乃山は、初日に遠藤、2日目に隆の勝、3日目に照ノ富士と、まさかの3連敗を喫した。
「大関、親方が呼んでます」
付け人にこう告げられた朝乃山は師匠・高砂親方(元大関朝潮)の居室のドアを開けた。師匠は愛弟子の顔を見るなり言った。
「大丈夫か」
「もう大丈夫です」
「体は動いている。落ち着いていけ」
「うちの親方はグチグチ言う人ではなく、スパスパッと言って終わります。2連敗の時点では『あ~っ。どうしよう』と思っていたんですが、3連敗で『もういいや、なんでもいいや』なんてどこか投げやりな気持ちにもなっていたんですけど、親方の言葉と、武隈親方(元大関豪栄道)が解説で『歯がゆい時もあるけど、これで相撲人生が終わるわけではない』とおっしゃっていたのを録画で見て、『ここで落ち込んでいる場合じゃない』と、開き直れたんです」
新十両時代から体を見てくれているトレーナーも大阪から駆け付け、「そんなにうまくはいかないよ」と笑ってくれた。
「いろいろ考えてしまったんですよね。横綱がいないんで、大関が優勝しなくちゃいけない。世間の目もそうだろうし、自分らの立場から考えてもそれが当然だと思うんで、今までにない責任感がありました」
九月は休場したいくらいだったと改めて
その重圧は傍からも見て取れた。初日敗戦後こそ報道陣のリモート取材に応じたが、以降は11日目まで無言を通したのだ。
「昇進した時に、親方に『負けてニュースになるのが大関だ』と言われたのを実感しました。親方は『負けて悔しくて話したくない時でも、どんな時でも受け答えできるのは自分がそれなりにやってきたからこそ。答えられないのは自分に自信がないからだ』と。この言葉を思い出し、確かに自信がなかったから取材を断っていたんだなって」
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