#1065
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[偉業達成の裏側]モロッコ「結束を生んだ監督解任劇」

2022/12/23
準々決勝ではエンネスリ(右)のヘッドでポルトガルを撃破。アフリカ勢初のベスト4入りを果たした
鉄の意志と熱いスピリット、魔術的なスキルをもった獅子たちは、強固な守備と鋭いアタックで、夢のような快進撃を続けていった。それらを支えたチームの結束力は、いかに育まれたのだろうか。

 壮大な冒険の終焉を告げる笛が鳴ると、アラビアン・ナイトの主人公たちは崩れ落ちた。ハキム・ジエシュ、アゼディン・ウナヒ、ソフィアン・アムラバト、アクラフ・ハキミら、ほんの少し前までフランスに猛攻を仕掛け、2点差をひとつでも返そうとしていた面々は、全てを出し尽くして芝の上に身体を投げ出した。スタンドでは多くのサポーターが涙を流している。

 だがモロッコの選手たちは、さほど時を置かずに立ち上がり、相手や味方と健闘を称えあった。アフリカ勢、そしてアラブ勢として、モロッコはW杯史上初の4強に入ったのだ。しかも準決勝で激戦の末に敗れた相手は王者フランスだ。悔しいけれど、誇らしくもある。そんな表情が見てとれた。

「モロッコの人々を落胆させてしまい、残念だ。彼らの夢を終わらせたくなかった」とワリド・レグラギ監督は試合後に話した。「だが、私たちが成し遂げたことについては誇りに思う。もうひとつ先まで行けると信じていたが、細部まで突き詰めていた真の王者に敗れてしまった」

 彼らはこの日も、マグレブ(北アフリカ西部)の選手特有の魔術的なスキルと鉄の意志、熱いスピリットをもって、強大な旧宗主国の代表に立ち向かった。前半早々に先制され、後半終盤に追加点を奪われても、最後の最後まで望みを捨てなかった。

 6分と表示された後半追加タイムの3分半が過ぎようとした頃、途中出場のアブデ・エザルズリが左サイドを深く抉って折り返す。今大会最大の発見のひとり、ウナヒが中盤から颯爽と駆け上がって真っ先にこぼれ球に触れ、しなやかなボレーでフランスのゴールを狙う。混戦のボックス内で味方が球を押し込もうとしたが、ゴールライン上で相手守備者に阻まれて、大国の牙城を崩すことは叶わなかった。

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photograph by Getty Images

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