「リハビリの過程でも、彼の口からネガティブな発言を聞いたことがないです」
板倉滉の周囲からはそういう声“しか”聞こえてこない。
「必ず強くなってピッチに戻るから!」
それが11月23日に初戦を迎えるカタールW杯に出場するためにサポートしてくれる人たちと板倉がかわした約束だった。
9月12日。所属するボルシアMGの練習で、板倉はマッチアップした選手の股下に自らの足を伸ばし、ボールを奪いにいった。そこで、相手選手がバランスを崩し、板倉の左膝に倒れこみ、膝があらぬ方に曲がった。昨シーズンのブンデスリーガ2部での大活躍を受け、三顧の礼で受けいれられた1部リーグを戦うボルシアMGで、昨シーズン以上のインパクトを放ち続けている最中の悲劇。左膝の内側靱帯の損傷だった。
アスリートの怪我のなかでもっとも痛みを感じる一つが、内側靱帯にかかわる怪我だと言われている。たとえば、25歳のときにこの箇所を初めて負傷した長谷部誠も、復帰の許可が下りた時点で相当な痛みが残っていることに驚き、神経質になっていた。
板倉も、25歳で初めて、この箇所を痛めた。同じ怪我に苦しんだ経験のある吉田麻也にも相談に乗ってもらい、回復に効果があると言われる栄養剤を大量にゆずりうけた。
「あれを飲んでいるときが一番、膝が治っている感じがしましたね」
そう振り返る板倉は、就寝前にそれを口にすることを、新たな習慣に組み込んだ。
しかし――。
決戦の地であるカタールのドーハに降り立ってからは、練習でも試合でも、怪我の跡を想起させるテーピングなど巻かずにボールを蹴り、ピッチを走り続けてきた。
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