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[新生インタビュー]高梨沙羅「誇りが生んだ新フォーム」

2022/02/04
「ベストを尽くした」と言う平昌五輪で、念願のメダルを獲得。しかしその後に彼女が選択したのは、自らのジャンプの“解体”だった。4年をかけ、ゼロから作り上げた新たな飛躍が北京の地に花開く――。

 ファインダーを覗く。その向こうに心を動かす何かが見えた。

 愛しい友人の微笑み、転戦中のロシアの駅の風景、そして、朝焼けの中でどこまでも続いていくような真っ直ぐな一本道――。

 スマホが写真機としてもこれだけ高性能になった時代に、世界を飛び回る25歳の高梨沙羅のスーツケースにはいつもフィルムカメラが大切に収められている。

「日本に戻ってから現像することが多いので、海外で思い出を貯めていってる感覚ですね。自分へのお土産みたいなものかな」

 最初に出会ったのは中判フィルムカメラのFUJIFILM GW690だった。前回の五輪を終えた後だったという。

「街のカメラ屋さんを覗いたときにすごくカッコよくて衝動買いしたんです。置いておくだけじゃもったいないなと思って撮り始めたら、魅力にはまっていきました」

 愛機を手に、シャッターを切りたくなるような、あえて心が動くような対象を探し求める時間。以前ならきっとその時間もジャンプのことを考えていただろう。

「これまでのオリンピックは、これしかないという狭い枠の中で考えていたんです。その他のものに触れると、自分にブレが生じてしまうと思っていました。だからこそ、あまり広い視野で見られていなかった」

 その無敵っぷりをライバルからアンドロイドと評されていた頃の高梨は、いつも硬い表情で一点をじっと見据えるようにしていた。競技中はもちろん、試合の会場でも、移動の空港でも。脇目も振らずに身を固くしていたのは、心が揺さぶられてブレることがないようにしていたのだった。

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photograph by Samo Vidic/Red Bull Content Pool
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