眼光鋭いドリブラーは五輪の重い扉をこじ開けた。だが短い栄華の後にあったのは泥沼の苦闘と大きな躓き。閉塞した才能を抱えた葛藤の先に彼は何を見つけたのか。(Number979号掲載)
光に照らされた先には影が映る。
光がまぶしいほど影は濃く、深くなる。
前園真聖は自分にまとわりつく影が嫌いだった。
5年、10年と経ち、引退しても消えない“1996年アトランタ五輪日本代表キャプテン”という肩書。
「僕はそれだけを言われるのがずっと嫌だったんです。アトランタのキャプテンと言われるってことは、その後の僕の実績はないんです。あれから2005年に引退するまで10年現役を続けていたのに。そういうモヤモヤをずっと感じていた」
前園は28年ぶりの五輪出場を果たしたU-23代表のエースであり、ブラジルを破った「マイアミの奇跡」の中心にいた。そのプレースタイルは幼少時代からマラドーナに憧れて身につけたもの。足に吸いつく細かなボールタッチで、密集地帯を軽々と抜けていく。そこからフィニッシュに持ち込むことも、スルーパスを通すこともできた。ドリブラーにはとかく天才の形容がつきものだが、当時の前園もゴール前で違いを生み出せる特別なドリブラーだった。
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photograph by Naoya Sanuki