イチロー取材から戻った記者たちが言った。「トウモロコシ畑の中の野球場に行きました」。シカゴから車を飛ばして4時間、映画『フィールド・オブ・ドリームス』撮影地アイオワ州の田舎町に行ったという。本書は、広く愛されたあの映画の原作者による、野球が主題の11編の短編集だ。
亭主持ちの恋人に夢中になり、試合に身が入らぬマイナー選手がいる。同僚から「野球が第一、女は二番目だ」と忠告されるが、そうはいかない。大リーグへの夢が遠のくのを自覚する主人公に恋人がかける「お月さまに向かって走りつづけて」の囁きが切ない。
おカネに不自由しない大リーガーにも悩みはある。遠征続きの生活で妻子と断絶。「十四シーズンもやってきて、残ったのはくたびれきった右腕と、三人の金持の別れた女房と、それにアル中だけさ」。そんな先輩投手の嘆きを思い出し、「野球選手というやつは昔から結婚を長続きさせるためのよい保険ではなかった」と悟る。
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