高校球児の夏は1敗で終わる。ここで勝てば――。その想いは全国大会よりも熱い。だからこそ奇跡のような一戦が生まれ、そして、ふるさとで語りつがれるのだ。
悲運のエースという言葉がこれほど真に迫る投手はいない。青森光星学院の左腕、洗平竜也は1年からエースとして3年連続夏の県大会決勝にチームを導くが、ことごとく敗れ去った。1年時の'94年は八戸に延長10回6-7で敗退。味方に5失策があった。翌年は青森山田に延長10回2-4で敗退。光星はサヨナラ勝ちの好機を逸していた。最後の夏は、弘前実に7回表まで4-0とリードしながら、その裏にテキサス性のヒット3本などで同点とされる。すると8回裏、先頭打者に死球を与えた洗平は、突然ベンチに戻り、金澤成奉監督(現・明秀日立監督)に自ら降板を願い出た。その後、2点を奪われ逆転負け。試合後、号泣する選手たちの中で、泣くこともなく呆然自失の洗平の表情を見た金澤は痛感する。
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photograph by KYODO