チャック・パラニュークが『ファイト・クラブ』という小説を書いたのは1996年のことだった。それは高度消費社会のなかで人間的実感を求めるためには、殴り合い、痛みを感じる必要があると描いた作品。その闘争が、自己分裂やテロ行為への志向を生む可能性をも示唆した物語は映画化もされ大ヒットし、件の消費社会の中でもすっかり生き延びるコンテンツとなっている。
本書『人はなぜ格闘に魅せられるのか』の著者ジョナサン・ゴットシャルは、2011年の1月に総合格闘技アカデミーの門を叩いた中年男。闘いを希求する男は21世紀にも存在するのだ。大学で英語を教える39歳の下っ端非常勤講師が、ノンフィクション版『ファイト・クラブ』に挑戦する、というと分かりやすい紹介になるが、実際の内容はもう少し複雑でユニーク。そして、個人史的だ。
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photograph by Wataru Sato