世界に名を知られた自国の国民的ヒーローが国家の反逆者になったのだからアメリカには悩ましい存在だった。チェスの天才ボビー・フィッシャー。棋風はモーツァルトの音楽のような芸術性に満ちていたが、大作曲家が多数の卑猥な手紙を書いて人々を困惑させたように、フィッシャーも反ユダヤ主義をとなえて周囲を辟易させた。自身がユダヤ系の血を引いているにもかかわらずだ。さらに9・11同時多発テロへの「これは文句なしにいい知らせだ」との反米コメント。
本書は、「チェス界のモーツァルト」の上昇と転落の軌跡を詳述した評伝。プロローグの成田空港での逮捕劇から死の2年後に墓を掘り返され遺体からDNA鑑定用のサンプルを採取されるエピローグまで、謎のカリスマを追うページから目が離せなくなる面白さだ。
特製トートバッグ付き!
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています
photograph by Sports Graphic Number