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名伯楽が、終生のテーマを語り下ろした情熱の書。 ~大西鉄之祐・著『闘争の倫理』~

2015/06/14

 ラグビーは闘争的なスポーツ。「試合中に、こいつをのばして、頭を蹴っていったら勝てるという時に、そこで、待てよ、それは悪いことだと、二律背反の葛藤を自分でコントロールできること」これこそが著者の説く「闘争の倫理」であり、「それがスポーツのいちばんの教育的価値じゃないかと感ずるんです」という。早稲田大学ラグビー部の監督を3度務め、日本代表監督時にはチームを世界のトップレベルに最も近づけた実績を持つ名監督の古稀記念として出版されたのが本書だ。

闘争、戦闘……スポーツを超えた著者終生のテーマ。

 功なり名を遂げて引退した人物のこの種の出版といえば、穏やかな回顧録になるのが定番だが、本書はそうならない。ラグビーを越えてスポーツと文化、スポーツの哲学、アマチュアとは、プロとは、遊戯としてのスポーツ、スポーツ教育、さらにはいじめの問題までをも含む、難しい課題に向き合う教育者としての著者の勉強記・格闘記の趣だ。著者と対談してそれぞれの課題を考察し論じあうのは西洋哲学研究者、英文学専攻の大学助教授ら3人の教育者たち。スポーツを通じて社会に益する(平和の維持に貢献する)人物を育成するために……と、著者は本書のテーマを語っている。そしてルール以前の「闘争の倫理」を繰り返し説き続ける。根にあるのは著者の戦争体験。戦闘は「狂気の沙汰」だ。人間の理性など何の歯止めにもならない。「これが人間の本性ではないか」。それを避けるにはスポーツの闘争の場面で「これをやってはいけない」と判断するのではなく、瞬間的にそれが実行できる意志と習性を作り上げることだ、という。それは著者の終生のテーマだった。

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photograph by Sports Graphic Number

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