世代交代が囁かれるなでしこにあって
次代のリーダー候補として存在感を高めている。
彼女はロンドン後の“その先”をどう見据えているのか。
夏の終わりの平穏な午後。熊谷紗希はすっかり日常を取り戻していた。「フランクフルトで一番アイスがおいしいと言われてて」と選んでくれたオープンカフェは、にぎやかに地元の人々で溢れていた。
通りを挟んだところにある空手道場から、彼女を見つけた日本人の子供達が駆け寄ってくる。求められたサインを丁寧に書き、握手をする。最近は、道行く人に声をかけられることも多くなった。それでも、日本国内の喧噪や過剰な注目とは無縁。静かにマイペースを保つことのできるこの街での暮らしを気に入っている。
「怒濤だったなって思いますね。それに、めっちゃ楽しかったなって。振り返ると、色んなことがあるはずなんですけど、でもなんだか、あっという間でしたね」
彼女にとって初めての五輪が終わり、1カ月と少したつ。
「私、目標はロンドン五輪だったんですよ、ずっと。だからメダルもとれて、今はほっとしてるんですよね」
彼女は打ち明け話でもするように話し出す。意外だった。五輪前はことあるごとに“自分は目の前の1試合しか考えることができない”“五輪なんて先のことは目標にできない”と口にしていたからだ。
昨季の女子CL準優勝チーム、フランクフルト移籍後の試練を糧に。
昨季の女子CLで準優勝に輝いた名門、フランクフルト。ここに移籍して約1年、熊谷は日本では経験したことのない苦労を味わっていた。当初は守備陣には不可欠な会話も満足にできなかった。チームメイトと意思疎通が図れず、彼女抜きで話し合いが行なわれたこともあったと言う。日本国内では既に確固たるポジションを築いていた彼女にとっては試練の期間だった。重要な試合で先発から外されるなど屈辱も味わい、五輪のことまで話す気にならないのも当然だった。
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