創部110年のタイガー軍団は、10年ぶりの優勝をかけ好発進をしたものの、早稲田に引き分け、帝京に逆転負けしてから、どこか歯車が狂い始めた――。
学生気質は変わり、他校も強化を進める中、日本ラグビーのルーツ校は今後、何に価値を求め、歩んでいくのか。
学生気質は変わり、他校も強化を進める中、日本ラグビーのルーツ校は今後、何に価値を求め、歩んでいくのか。
本来なら、取材を受けるのではなく、決勝戦に向けて日吉で練習をしているはずだった。しかし1月2日、慶應は東海大に敗れ、突然のシーズンオフがやってきた。
「2月までまったく予定を入れていなかったので、取材がある方が助かります」
今季、慶應の主将を務めた松本大輝は毎試合後の会見での律儀な答えが印象的だった。敗れた後でさえ「日本一という夢は達成できませんでしたが、この夢を後輩たちに託したいと思います」と毅然とした態度を崩さなかった。会見が終わってから、記者団から期せずして拍手が起きたのは、松本に対するねぎらいの意が込められていたからだろう。
4月からは一般企業に就職するため、頂点を目指すラグビーからは退く。
「2月まで目いっぱいラグビーをするつもりだったので――時間が経ったら、またプレーしたくなるかもしれませんね」
「小よく大を制す」ラグビーで慶應は捲土重来を誓う。
少し時間をずらしてから、監督の林雅人がやってきた。
必然的に話は今季の総括に及んだ。今季の大学ラグビーは、結果を見れば決勝に勝ち上がった2校は大型FWを持ち、外国人留学生がふたり先発に名前を連ねていた。慶應は帝京、東海の両校と対戦してFW戦に持ち込まれ、力に屈した形となった。林は言う。
「来季に向けて考えを練っている最中ですが、来季の慶應が取り組むべきことは、『小よく大を制す』。これに尽きると思います。そこに価値を見出して、実際に取り組み、優勝を目指しているのは慶應しかいないと思います」
林が監督になって3年、「慶應しかいない」と言い切れるようになったことが、グラウンドで積み重ねてきたことの証である。
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photograph by Shigeyoshi Ohi