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「会場の声は自分を客観視するバロメーター」柔道48kg級金メダリスト・角田夏実が感じていた声の力と、声を活かした新たなミッション

posted2026/07/10 11:00

 
「会場の声は自分を客観視するバロメーター」柔道48kg級金メダリスト・角田夏実が感じていた声の力と、声を活かした新たなミッション<Number Web> photograph by Miki Fukano

text by

石井宏美

石井宏美Hiromi Ishii

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photograph by

Miki Fukano

 張り詰めた空気、静まり返った会場、そして畳の上で対峙する二人。多くの人は「柔道は静寂の中で行われるもの」というイメージを持っているかもしれない。しかし、実際に畳の上に立つアスリートの耳には、私たちが想像するよりもずっと鮮明に、驚くほどいろんな声が届いている。

 柔道48kg級金メダリストの角田夏実さんは試合中の感覚をこう表現する。

「柔道は静かに観戦するものと思われがちですが、実際には観客席からの声は本当によく聞こえます。コーチの声はもちろん、遠くの席から飛んでくる何気ない一言まで届いているんです」

 極限まで集中すると外の音が消えたように静まり、意識が一点に集まる。角田さんの場合、その集中力は音を消すのではなく、必要な音を選別するという心理状態へと繋がっている。

「いい状態のときは、いい声だけが選別されて耳に飛び込んでくるんです。自分への応援だけでなく、相手に向けられた声もあえて聞くようにしています。相手に対して『次、行け!』という言葉がかけられているなら、『あ、攻めてくるんだな』と予測できる。会場の声や自分を客観視し、状況を把握するための『バロメーター』として使うんです」

 観客の声がまったく聞こえないとしたら、それは自分がパニックに陥っている証拠。逆に、様々な音が入り交じった中から必要な情報だけを拾えているときは、心が冷静に保たれているのだという。

 現役時代の角田さんにとって、観客席でエールを送ってくれた応援団からのお決まりのフレーズは、日常から戦場へと心を切り替えるためのスイッチになっていた。畳に上がり、礼をして試合に入る瞬間にその掛け声を聞くと、「今、自分は戦いの場にいるんだ」「これだけの人に支えられているんだ」という覚悟が決まり、身体の奥で気持ちがぎゅっと引き締まった。

「たとえば、自分が相手に攻められているときや流れがうまくいっていないときは『落ち着いて』とか、『大丈夫』という声が届くんですが、その声を聞いた瞬間、一度冷静になれるんです。それは自分を外から眺めているもう一人の自分が戻ってくるような感覚ですね。声の力は、技術以前にメンタルコントロールに直結していると感じます」

 どんなときも聞こえていたのは長年二人三脚で歩んできたコーチの声だった。興味深いのは、試合中に角田さんが心の中でコーチや応援席と会話していたことだ。

「『今だ、行け!』と言われても、『いや、今は無理!』『分かってるけど出られない!』と心の奥で反発していることもあるんですよ」

勝敗をも左右する“声の力”

 ときには声援がよくある励ましを超え、魔法のように技を成功させることもある。

「今でも鮮明に覚えている」と振り返るのは、52kg級時代の全日本選抜柔道体重別選手権、宿敵・志々目愛選手との決勝戦だ。

 互いに手の内を知り尽くした極限状態。試合は延長戦(ゴールデンスコア)にもつれ込み、角田への指導は2。あと一つ指導を受ければ負け、あるいは一瞬の隙を見せれば投げられる。そんな緊張感の中である声が耳に飛び込んできた。

《今だ!》

「私の柔道をよく見てくれている知り合いが、その試合で声援を送ってくれた瞬間に巴投げが決まったんです。あとで映像を見返しても本当にそのタイミングしかなかったですし、その知人とも『あのタイミングしか技をかけられなかったよね』と話したほど絶妙でした。戦っている選手が見えるのは相手との至近距離の世界だけですが、客席からは全体が俯瞰で見えています。私の感覚と、外から見ている人の視点が一致したときは、言葉にできないほどの一体感が生まれますね」

 コンマ数秒の狂いもなく繰り出された巴投げは、角田さんの勝利を決定づけた。

 一人で戦っているようで、一人で畳に立っていないような感覚。それはどこか安心感を生む。会場の声が背中を押し、自分の力だけでは届かなかった境地へ引き上げてくれる。個人競技である柔道におけるエールの真骨頂といえるかもしれない。

 現役を退き、応援する側になった今は、それをより強く感じるようになったという。

「実際に全力で応援してみると、『こんなに疲れるんだ!』って驚きました。でも本気でやればやるほど、ちゃんと伝わる。応援は単なる音ではないですし、自分の命を削ったエネルギーを選手に分けてあげる作業だと思いますね」

柔道の伝道師として

 そんな角田さんは、今年1月から新しいミッションに挑んでいる。

 その一つに、柔道の普及活動や講演を通じて自身の経験を言葉で伝えていくことがある。かつて畳の上で背中を押してくれた声を、今度は自分が誰かのために使う。

「柔道では感覚で伝わっていたことも、講演では言葉にしないと伝わりません。自分のボキャブラリーの少なさに悔しい思いをすることもありますが、話し方や言葉を工夫して相手に伝わった瞬間の喜びは、試合で一本を取ったときのようにガッツポーズしたくなるほどです」

 現役時代は練習計画や本番のパフォーマンスを大きく狂わせてしまうため、風邪すらひけなかった。乾燥の激しい海外遠征ではマスクや加湿器を欠かさず、のどに少しでも違和感があればすぐにケアをしてきた。

「気を張っているので試合まで体調を崩すことはないんですが、帰ってきた途端、のどがイガイガするところから始まって、風邪をひくこともありましたね。だから私も喉に違和感があったらのど飴をなめたりマスクをしたり、寝るときに加湿器をかけるなどして気をつけていました」

 そんな経験を通して今、新たなステージで多くの人に自身の思いを伝えるために徹底していることがある。それが喉のコンディショニングだ。ケアに人一倍気を遣っているからこそ、最近は「龍角散ダイレクトスティック」がお気に入り。微粉末生薬成分がのどの粘膜にダイレクトに作用し、のどの炎症による声がれ・のどのあれをやわらげる効果がある第3類医薬品だ。

「最初は苦いんじゃないかと思って手を出しづらかったんですが、すっきりとしたフレーバーで飲みやすいですし、水がなくてもどこでもサッと服用できる。口に入れるとあわ雪のように溶けて喉を潤せるのがうれしいですね。コンパクトに持ち歩けるので、講演や移動の際に重宝するんです」

 実は「龍角散の のどすっきり飴 シークヮーサー味(食品)」の大ファンだという角田さん。

「みんなでカラオケに行く日はのど飴をなめて喉を潤すのがルーティンになっていました。特にシークヮーサー味を見つけたときは、みんなで宝物を見つけたように喜んだりしました(笑)。これからはカラオケの後にも龍角散ダイレクトを飲んで、喉のコンディションを整えたいと思います」

 柔道普及へ意欲を抱き、道場が特別な場所ではなく、畳の上に立つことが自然な日常になってほしいと願う彼女にとって、声は新しい武器といえる。

 「これからも喉の異変には常に敏感でいたいし、ケアを怠らないようにしたいですね」

  角田さんが畳の上で受け取り、そして伝えてきた声。その積み重ねは、これからの柔道界だけでなく、挑戦を続けるすべての人の心に響いていく。

角田 夏実Natsumi Tsunoda

1992年8月6日生、千葉県出身。小学2年生で柔道をはじめる。八千代高校、東京学芸大学を経て社会人となってから世界レベルで頭角を現し、2017年の世界選手権52kg級で銀メダル獲得。'19年に48kg級へ階級変更すると、'21年から世界選手権で3連覇を達成。'24年にはパリオリンピックで金メダルを獲得した。今年1月に現役引退を発表。現在はメディア出演のかたわら柔道の普及に努めつつ、地元で道場を開く夢を実現すべく活動している。

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