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ダルビッシュ有「269日ぶり」復帰登板までの知られざる舞台裏…開幕直前に起きた“異変”「代名詞の球種を失う可能性もあった」39歳目前の新境地
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山田結軌Yuki Yamada
photograph byYuki Yamada
posted2025/07/11 06:01

38歳、ダルビッシュ有が怪我を乗り越えてマウンドに戻ってきた
苦しんだ「投げられない日々」
試合に投げられない日々は、野球選手として「難しい」時期だった。ピッチャーとしての存在価値が揺らぐような気持ちにもなった。6月25日、マイナー1Aでのシミュレーションゲーム登板後にこんな心境を明かしていた。
「生まれて7歳から、勉強とかみなさんがやっていることをやらなくて、ずっと野球だけやってきている。それがなくなった時はやっぱりすごく難しくなりますから。投げて、やっと安心するってところはありますね」
メジャーで迎える14年目の今季キャンプイン時には「33回ぐらいの先発はしたい」と意気込んでいた。「33」という数字に、先発としての自信と決意が透けて見えた。先発投手は中4~5日のローテーションを崩さず投げれば、30~32回は先発する。メジャーでは30先発以上が超一流の証でもある。それを「33」と具体的な数字を出したのは、コンディションがよく、体調に手応えがあったから。実際、キャンプインから3月中旬に右肘の炎症が起こるまでは、すこぶる好調だった。
39歳、加齢を受け入れつつ抗って…
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春季キャンプからのダルビッシュを振り返る。2月から3月上旬までは順調に過ごした。ブルペンでの最速は、2月中に95マイル(約153km)に到達。3月1日の練習試合(対ホワイトソックス)での登板では、最速96マイル(約154.5km)をマークしていた。従来の左足を上げてから2段モーション気味にタメを作る投球フォームから、一連の流れの中で投げる新フォームの習得に取り組んだ。
「今までみたいに筋肉を使って投げていくと限界がある。若かったら大丈夫だと思うんですけど、もうちょっと骨格や体のメカニズムを使った投げ方にしていきたい」
約1カ月後の8月16日には39歳を迎える。加齢に伴う体の変化を理解しながら、老いに抗うために常に新しい取り組みを続けていた。
3月に起きた「異変」
順調にみえたキャンプとオープン戦期間。異変は3月に起きた。3月13日、ロイヤルズとのオープン戦(サプライズ)で4回54球を投げ、最速95マイルをマークした試合後のことだ。右肘に炎症が起こり、開幕に向けた調整が不透明になった。