ハイペースで引っ張った理由を「6週間後にシカゴマラソンを控え、スピード練習をする機会がなかったので今日はポイント練習として走った」と教えてくれた。

「（あなたの）好ペースもあって田中が日本新を出しましたが」と問いかけると、にっこり笑ってこう応じた。

「試合前緊張しているみたいだったけど、よく頑張ったよね。私のように3種目に挑戦した選手だし、頑張ってほしいと思っている。私、希実のこと大好きなの」

　ハッサンは昨年のオレゴン世界陸上で3種目に挑戦した田中を「チームメイト」か「かわいい後輩」のように思っているのだろう。

田中とハッサンの固い絆

　3種目挑戦の理由は田中とハッサンでは異なるが、挑戦した者だけが分かち合える固い絆が2人の間にはある。

　メディア対応を終えてウォームアップエリアに戻ったハッサンは、田中を見つけると駆け寄って力走を褒め称えた。

「よく頑張ったね」

5000m予選レース後にハッサンと記念撮影する田中希実　写真提供：田中健智

　日本新のお祝いも兼ねて記念撮影をし、決勝での健闘を約束して別れた。

　世界のトップ選手、ハッサンに背中を押してもらい、また一つ新しいドアを開けた田中が今後どう世界と戦っていくのか、ワクワクしながら見守りたい。