永瀬拓矢王座。対局日以外を練習将棋で埋め尽くす将棋の鬼は、藤井の棋才にいち早く目をつけ、2017年5月からぶつかり稽古を重ねてきた。当時は格上の永瀬が藤井の居住する愛知県に赴くほどの熱の入れようだった。永瀬は藤井への敬愛と尊敬をまったく隠すところがない。「自分が何とかしがみついていって、藤井さんの望む『強くなることで見えてくる景色』を見せてあげたい」とまで言い放つ永瀬にとって、藤井とタイトル戦で相見えることは待望という言葉では足りない。渇望だった。

まさかの2度の千日手

　6月3日に淡路島で指された第1局は、異様な展開になった。千日手が2回も続いたのだ。初戦は先手の藤井が面白くない進行にしたので仕方がない面もあった。

　仰天したのは1度目の指し直し局だ。先手の永瀬が角換わりにしたが、受けて立った藤井の様子を見てすかさず千日手にしてしまった。まだ前例がある局面だったのにも関わらず、だ。

＜続く＞

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