トラックマンを設置したレーンでダルビッシュ投手が投げることになりました。通常は投げ終わってからデータをチェックする投手が多い。だから投げている間は僕がタブレットを持ってトラブル時に対応しようと思っていたら、ダルビッシュ投手は「1球1球画面をチェックしたい」と言ったんです。そこでマウンドの横に椅子を置いて、そこにタブレットを置いた。ダルビッシュ投手の投球は、キャッチャーの後ろに多くの投手が陣取って一挙手一投足を見ていましたね。

ダルビッシュのブルペン　©Hideki Sugiyama

　トラックマンやラプソードなどの計測機器はすべての球団で導入しているから、投手がデータを見ることはできる。でもダルビッシュ投手のように1球1球チェックする投手は、ほとんど見たことがなく、ほぼ投げ終わってから数字を見るだけでした。MLBのトップで活躍する投手はこんなに細かくチェックするんだ、と思いましたし、この姿勢は他の投手たちには大きな刺激になったんじゃないかと思います〉

佐々木朗希スライダーの衝撃と切磋琢磨

　そして3日目、佐々木朗希がブルペンに入った。

〈「データ取りますか？」「お願いします」というやりとりがあって、トラックマンを設置しているレーンで投げた。「1球1球、見たいですか？」と聞いたら朗希投手も「お願いします」と。これはダルビッシュ投手が前日そうしていたのを見ていたからだと思います。それから侍ジャパンのほぼすべての投手が1球1球データを見るようになりましたね〉

　1球ごとにトラックマンのデータをチェックする習慣は、NPB球団に戻ってからも各投手は続けるのではないか。WBCのキャンプから投手の意識変革が起こる可能性もあるだろう。

佐々木朗希の投球練習　©Hideki Sugiyama

〈佐々木朗希投手は、ダルビッシュ投手に投球後のトラッキングデータを見てもらって、アドバイスをもらっていました。WBC侍ジャパンのドキュメント映画『憧れを超えた侍たち　世界一への記録』でもその様子が出ていましたね。朗希投手にはとても自信になったんじゃないかと思います〉

　今季の佐々木朗希は、スライダーが加わってさらに投球の幅が増したが、その背景にこんな話があった。

〈ダルビッシュ投手のトラックマン活用法を知って、他の投手もデータを気にするようになった。そしてそれ以上に、投手がほかの投手の投球データに注目するようになりました。これも成果でしょうね。もともとNPB球団にもデータ好きな投手は何人かはいましたが、そういう意識がWBCに出るようなエース級の投手に生まれたのは大きいでしょう。

【次ページ】　ライブBPで見た村上宗隆の凄さとは