F1ピットストップBACK NUMBER
《F1》「鈴鹿プライドを忘れるな」3年ぶり日本GP開催にこぎつけた、鈴鹿サーキットスタッフたちの知られざる戦い
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2022/09/30 17:00
コロナ禍前となる2019年の日本GPの勝者はメルセデスのボッタス。これによりハミルトンとメルセデスは、ドライバーとコンストラクターのダブルタイトルを確定させた
「鈴鹿の人たちは私がホンダモビリティランドの社長だと知っている方が少なくなく、タクシーに乗ると『社長、今年こそF1をお願いします』と、よく言われるんです。さすがモータースポーツ宣言都市。地域全体が鈴鹿サーキット、F1を大事にしていて、モータースポーツが根ざしています。その鈴鹿でわれわれは仕事をしている。モータースポーツには見る・乗る・支えるがあり、われわれは支える側。鈴鹿には日本を代表するサーキットがあり、そこで開催される日本GPを、最高級の質で提供するというプライドを持つことが大事だという意味で、社員には『鈴鹿プライドを忘れるな』と言っています」
その鈴鹿プライドを胸に、鈴鹿サーキットのスタッフたちは、21年の中止が決定した直後から22年に向けた準備をスタートさせた。そんな鈴鹿の対応を見て、F1の最高経営責任者であるステファノ・ドメニカリは「22年こそ、絶対に日本GPをやろう」と、田中を励まし続けた。
開場60周年の新たな試み
じつは今年は鈴鹿サーキットにとって特別な年だ。サーキットが完成したのが1962年。今年は開場60周年となる。その特別な年に3年ぶりに開催される日本GPに向けて、田中はすべてを見直すよう指示を出した。
「これまでやってきたことが本当に正しかったのか。もっと効率の良いやり方はないのか。この機会に一旦リセットさせました」
3年ぶりに鈴鹿サーキットで開催される日本GPだが、今年の日本GPは単に3年前に戻るのではなく、新しい鈴鹿、新しい日本GPの始まりだと言っていい。
その日本GPを前に、田中は現在の心境をこう語った。
「『お待たせしました』という気持ちです。F1ファンの皆さんはもちろん、鈴鹿市民の皆さん、本当にお待たせしました。そして、すべてのレース関係者の方々に対しては、『お帰りなさい』ですね」
鈴鹿プライドの下で開催される3年ぶりの日本GP。グランプリが開幕する10月7日、「待っていました」、そして「ただいま」という気持ちで、鈴鹿の門をくぐりたい。