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統一戦延期で「心に穴が空いた」井岡一翔はなぜ大みそかのリングに立ったのか? 原点回帰した王者に挑戦者は脱帽「完璧なボクサー」
posted2022/01/04 17:05
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
ボクシング界の2021年は、井岡一翔(志成)が締めくくった。大みそかに東京・大田区総合体育館で行われたWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチで、井岡は挑戦者の福永亮次(角海老宝石)に危なげない判定勝ちで4度目の防衛に成功した。井岡が初めて世界王者となった日から10年超。誇り高きチャンピオンの過去、現在、未来を本人の言葉から探ってみたい。
入国制限で統一戦が延期に…「心に穴が空いた」
そもそも昨年の大みそか、井岡にはIBF王者のジェルウィン・アンカハス(フィリピン)との統一戦が組まれていた。しかし、政府がオミクロン株の水際対策で外国人の入国を制限したため、待ち焦がれていたビッグマッチは延期に。ピンチヒッターのアジア3冠王者、WBO6位、IBF8位の福永と試合をすることになった。
「10度目の大みそか、最高の舞台で統一戦が整ったと思った。(それが延期となり)逆に初心を思い出すというか、初めて大みそかにリングに立った時を思い出した」
いつも涼しい顔をしている井岡だが、アンカハス戦の延期は「心に穴が空いた感じ」。家族に「おはよう」と声をかけられても、うまく反応できないほど大きなショックを受けた。振り返れば井岡は2017年大みそかにいったん引退を表明。翌年、復帰するにあたっては日本人選手初の「4階級制覇」と「海外で評価されるチャンピオン」を目標に掲げた。
19年に4階級制覇を達成し、残りは世界的に評価の高いスーパーフライ級トップ選手、フアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)やローマン・ゴンサレス(ニカラグア)らと海外の舞台で戦って勝利すること。まさに「悲願」とも言うべき目標に向けて、第一歩となるのがアメリカを主戦場にIBF王座を9度防衛しているアンカハスとの2団体統一戦だったのだ。
ターゲットにしていたアンカハス戦が流れ、井岡は大みそかに試合をする意味がなくなったかに見えた。代役を立てて世界タイトルマッチを開催するというのは確かに選択肢のひとつとはいえ(テレビ局や関係者はそうしたいところだろう)、本人のモチベーションを考えればかなり難しい選択となる。