ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
パッキャオが今も戦い続ける理由。
WBA王座を統一した「40歳の最高」。
posted2019/07/27 18:00
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
AFLO
まだ終わってはいなかった─―。
世界6階級制覇(海外では8階級制覇と表現されることが多い)のスーパースター、マニー・パッキャオ(フィリピン)である。さる20日、ボクシングの聖地、米ラスベガスに登場したパッキャオはWBA世界ウェルター級スーパー王者、無敗のキース・サーマン(米)に判定勝ち。2-1と割れたジャッジながらウェルター級屈指の実力者に勝利したのだ。
不惑の40歳。キャリア71戦目を迎えるパッキャオは、ここ数戦のパフォーマンスを見る限り、絶頂期の力がないことは明らかだった。対するサーマンは30歳。右ひじなどの負傷で2年近いブランクを作り、今年1月の復帰戦がパッとしなかったとはいえ、パッキャオにとってはここ数年で最も危険な相手と思われた。
スター選手の衰えた姿を見るのはいつだって寂しいものだ。ところがパッキャオは40歳とは思えないパフォーマンスを披露してサーマンを攻略した。いや、正確には「40歳とは思えない」ではなく、「実に40歳らしい」パフォーマンスを我々に披露したのである。
40歳の自分ができる最高のボクシング。
かつてのパッキャオは、恐ろしいほどにキレのあるステップインや、爆発的なパワー、本能的な野性味を武器に勝利を重ねていた。40歳のパッキャオが変わって武器にしたのは、敵の裏を突く巧みさであり、キャリアに裏打ちされた試合運びのうまさだった。
初回に右フックでダウンを奪う好スタートを切ったパッキャオは2回以降、パワータイプのサーマンにスピードで対抗。伝家の宝刀だった左ではなく、右を軸に細かいパンチをコツコツと当てて序盤をリードした。
しかし、中盤は初回のダウンから立ち直ったサーマンのアタックに苦しめられた。フィリピン上院議員と二足の草鞋を履くパッキャオはやはりスタミナが弱点だ。脚が止まり始めると、たちまちサーマンのパンチを浴びるシーンが目立つようになる。6回から9回までの4ラウンドはほぼサーマンのペースだ。
それでもパッキャオは攻められたあとは必ず攻め返し、相手に傾きかけようとする流れをギリギリで食い止めた。10回、動かない脚にムチを入れて左ボディを突き刺すと、サーマンは体をくの字に。最終12回も攻め、難敵に競り勝ったのである。
確かにダウンを奪ったが、鮮やかとか、豪快というフレーズがピタリとくるようなパフォーマンスではなかった。休もうとしていたのか、ロープを背に動きを止める姿を何度もさらした。それでもパッキャオは過去の幻影にとらわれることなく、ペース配分に気を配り、試合の流れを巧みに読み、40歳の自分がいまできる最高のボクシングを披露した。若いころとは違う、味わい深い渋みを感じさせた。