野球善哉BACK NUMBER
WBC出場を言い訳にしないプライド。
秋山翔吾の“皆勤賞”と首位打者。
posted2017/10/09 09:00
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Kyodo News
シーズン終盤、負けられない戦いに挑む西武ナインが練習から引き上げてくるのを待っていると、顔みしりの記者がボソッとつぶやいた。
「1年って早いですよね。札幌の開幕からって考えると。それなのに、WBCだけはなんか、遠い昔にあったことのような。今年だったんですよね」
WBC日本代表に選ばれた選手にとって2017年は長いシーズンだったに違いない。12球団から選ばれし選手たちはシーズン前、張り詰めた緊張感で闘った7試合、そしてWBCに向けての強化試合も戦っていたからだ。
しかし現場では、WBCについて聞くのは“ご法度”のような空気が流れていたのも事実だ。
WBCに出場した選手たちは日の丸を背負うという重圧の中で戦った。とはいえ、シーズンでのパフォーマンスに結び付けられるのを不満に思う選手は少なくなかった。
「疲れを感じるのはWBCとは関係ないですよ」
「いつも以上のシーズンの長さは感じないです。シーズン終盤になったら、必ず疲れはでてきますし、この時期は誰もが疲れを感じながらプレーしている。9月から調子が悪くなっているのは事実ですけど、それはWBCとは関係ないですよ」
そう語ったのは西武のヒットメーカー・秋山翔吾だ。WBCメンバーの野手では広島の田中広輔、ヤクルトの山田哲人とともにフルイニング出場を果たし、パリーグの首位打者・最多安打のタイトルをほぼ手中に収めた。
シーズン中の秋山から感じたのは、選ばれし者としてのプライドだ。何度も問われた「WBCの影響」は彼にしてみれば「意地悪な質問」で、筆者も実際に怪訝な表情をされたこともあった。
それでも彼に対してWBCのことを尋ね続けたのは、WBCでの経験がプラスであることを証明する姿勢を感じたからだ。それは「WBCに出たがために……」といった後悔の気持ちではなく、「WBCに出たからこそ」という前向きなものだ。