イチ流に触れてBACK NUMBER
最高のチームメイトを失ったイチロー。
フェルナンデスに送った最後の言葉。
posted2016/10/13 11:30
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
Getty Images
誰もが自分の目を、耳を、疑った。それはイチローも同じだった。
「(通訳の)アランから連絡があって、なに言っているの? って……。最初はアランの頭がおかしくなったのかと思った」
9月25日、午前9時。試合開始4時間前のことだった。ボート事故によるホゼ・フェルナンデス投手の急死の訃報にイチローだけでなく、マーリンズ関係者の誰もが頭の中を整理できずにいた。深い悲しみに包まれ、試合はキャンセルされた。
わずか11時間前まで、彼はチームメイトとともに、そこにいた。
屈託のない明るい性格で常に笑顔を振りまき、マウンドに上がれば三振の山を築き、スコアボードに「0」を並べる。今季も16勝、253奪三振、チームの絶対的エースだった。自信に満ち溢れたパフォーマンスと喜怒哀楽を素直に表現する立ち振る舞いはまさに“やんちゃ坊主”そのものだったが、24歳の輝かしい未来は突然に消えてなくなった。
イチロー「後ろで守っていて頼もしい感じがする」
イチローがフェルナンデス投手のピッチングを初めて目にしたのは、昨年7月2日のジャイアンツ戦だった。
'14年に受けたトミー・ジョン手術からの復帰戦で最速96マイル(約155キロ)の直球と切れ味鋭いスライダーを駆使し、6回を3失点、6奪三振で勝利投手となった。右翼から背番号16の小気味良い投球を目にした51番は、珍しく興奮を隠しきれないでいた。
「雰囲気あるじゃないですか。振る舞いも含めて。自信に溢れている感じがする。明らかに(他の選手とは)違うでしょう。あるじゃないですか、スターの雰囲気を持っている人って。そういうのをこの人は持っていますね。後ろで守っていて頼もしい感じがする」
マリナーズ時代に同僚だったサイ・ヤング賞右腕、フェリックス・ヘルナンデスの実力とキャラクターを重ね合わせながら、メジャーの世界でも別格と言えるその才能に一瞬にして惚れ込んだ様子だった。