野球善哉BACK NUMBER
大阪桐蔭と智弁学園の“好循環”。
OBプロ選手が母校で練習する意味。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/01/20 10:30
プロでもスラッガーとして頭角を現しつつある森友哉。その存在が後進に与える影響ははかりしれない。
高校時代の森友哉は、へそで打っていなかった。
へそで打つというのは、体の反動や手の動きだけでバッティングをするのではなく、体幹を使いながら体重移動させるバッティングのことだ。「上体だけで打つでもなく、下を使うだけでもなく」ボールを手元まで引き付けられ、おへそを中心にして体の回転でバットを振りぬく。
これは、指導すればできるようになる、というものではなく、感覚によってつかんでいく技術だ。たとえば西武の中村剛也は、高校のときからそれができていた。だからこそ、ストレートにも変化球にも対応ができ、なおかつ遠くまで飛ばすことができるのである。
「森友哉の打ち方は、へそで打つ感じじゃない。前のさばきだけで打っているんです。あんなバッティングで打てるのは、森友哉だけですよ。正直、よく打てるなと思います」
有友は昨年の夏にはそう話していた。森はプロに入ってからも成長した。さらに、森の姿を目にした青柳にも、その技術が伝播しているのだ。
大阪桐蔭には、プロを間近に見る環境がある。
ここで注目したいのは、それは環境のなせる業だということだ。
森というプロで活躍する先輩がいる。それを間近で見ることができる環境が、人を育てる。野球界のルール上、プロが高校生を直接指導することはできないが、練習を見るだけでも、その技術や精神を肌で感じることが大きな財産になるのだ。
その好循環を最大限に生かすことができている高校のひとつが、大阪桐蔭であるといえるだろう。昨今の同校の躍進の一つは、この環境にある。
西岡剛(阪神)は、高校時代に可愛がってもらった先輩の弟である浅村栄斗(西武)を気にかけていたし、中田翔(日ハム)が高校生の頃は、中村剛也(西武)と並んでロングティー練習をすることで、上には上がいることを知る機会を得た。
その中田にしても、プロ入団以降は母校でそのけた外れのパワーを後輩たちに見せることで、プロの世界の肌感覚を伝えてきた。そんな良い循環が大阪桐蔭にはあるのだ。
ドラフトが終わって以降、青柳に対する評判は決して良いものではなかった。しかし、森という偉大な先輩を目の当たりにすることで、昨年の春以降陥っていた不調からようやく抜け出そうとしているのである。