野球善哉BACK NUMBER
安打記録がかかる打席で四球を選ぶ。
西武・秋山翔吾の伝説は今始まった。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/07/15 12:20
14日終了時点、3割8分3厘でパ・リーグで堂々の首位打者に立つ秋山翔吾は、出塁率でも4割3分6厘で2位につけている。守備の評価も高く、いまや日本有数の外野手だ。
記録よりも自分の役目を忠実に果たしてきた。
その言葉が現実になったのが7月8日の対オリックス戦だった。
この試合では1打席目に四球を選び、第2、3打席は凡退。最終打席になる可能性が高かった第4打席も四球で出塁した。チームが苦戦を強いられる試合展開の中、彼は記録より自身の仕事を全うしたのだった。すると8回裏にチームが反撃の狼煙を上げ、最終回に第5打席が回ってきたのだ。そして、左翼スタンドにホームラン。
何か運命的なモノが秋山の背中に憑いていたような話である。
記録まであと2試合と迫った14日の試合も、改めて秋山の真価が問われた試合だった。
試合は、牧田和久vs.則本昂大の投手戦の様相で進み、6回裏、西武が森友哉の中前適時打と渡辺直人の併殺崩れの間に2点を先制。その後に1点を失うものの、西武は増田達至-高橋朋己の継投で逃げ切りを図った。この時点で秋山は4打席凡退。7回裏の第4打席で左翼フライに終わった際には、スタンドからため息のような声が聞こえてきた。
西武ナイン、そしてファンも複雑な思いだったに違いない。このまま勝利を収めたい。だが、それが何を意味するのかも分かっていたのだ。
ところが9回、楽天が驚異の粘りを見せる。代打攻勢を仕掛け、1死二塁から4番・後藤光尊の代打ウィーラーが秋山の頭上を越す適時打を放ち、土壇場で同点に追いついた。9回裏の西武の攻撃が無得点に終わると、10回についに秋山に打席が回ってきた。
またしても運命が秋山に味方するのか、誰もがそう思う展開だった。
秋山にバントのサインは? 進塁打は?
とはいえこの打席は、西武と秋山にとって単なる「連続試合安打記録へのチャンス」というだけのものではなかった。この日の西武は4連敗中であり、どうしても勝たなければいけない試合でもあったのだ。
10回裏は9番・斉藤彰吾から始まり、秋山は2番目の打者。
もし斉藤が単打か四死球で出塁した場合、田邊徳雄監督は送りバントのサインを出すのだろうか。斉藤がもし二塁打を放てば犠打の可能性はさらに上がるし、強攻策に出るとしても、秋山は進塁打を意識したバッティングをするのか。
10回裏の攻撃が始まる前には、観る者の多くがそんな想像をしたことだろう。