メルマガNumberダイジェストBACK NUMBER
オシムが語る、日本代表監督の条件。
「適任かどうか見極めるのは難しい」
posted2015/03/27 17:00
text by
イビチャ・オシムIvica Osim
photograph by
Sports Graphic Number
メルマガ「イビチャ・オシムの『オシム問答』」。
最新号の中身をちょっとだけ……特別にご紹介いたします!
▼Lesson.100 目次
【1】 〈今週の「オシム問答」〉
「ハリルホジッチが優れた監督であるのは間違いない」
【2】 〈オシムとの対話〉
「どんな義務が彼の前にあるのか、ハッキリと伝えておくべきだ」
【3】 〈フィリップ・トルシエ、エジプト戦を語る vol.3〉
「日本サッカーを発展させていくうえで、とても重要なことは……」
【4】 〈オシムの教え〉
「選手や監督のインタビューでの軽率な発言が、反発心を喚起する」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【2】 〈オシムとの対話〉
「どんな義務が彼の前にあるのか、ハッキリと伝えておくべきだ」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
――では伺いますが、あなたはヴァイッドが今の日本にとって適任者だと思いますか?
オシム:まあ聞け。私は何も考えてはいなかった。誰が候補者であるのか、具体的に知らなかったからだ。彼が候補に挙がっているのも、今、君から初めて聞いた。
――昨日、ヴァイッドと電話で話したのですが、「今はまだ何も言えない」と彼は言っていました。まあ、こうした質問に対する常套句であるといえますが……。
オシム:たしかにその手の質問には答えにくい。一日や二日で決まることでもない。じっくり考えて決めるべきことだ。真剣な問題だ。
ただ私の印象では、彼らは少し安易に決めようとしているように見える。
――そうでしょうか。
オシム:代表監督は、そう簡単には決められない。まず、どうしてなのかを明確にしなければならない。どうして変えなければならないのか、何がいけないのか……。
もしもチームが素晴らしくてすべてが整っているのであれば、必ず人々に支持されるし、彼らにも理由をはっきりと説明できる。そして新たに選んだ監督も、事前に良く調べてどういう人物であるのか、何ができる監督であるのかをよく知っておく必要がある。チームの野心と監督の野心が一致するのかどうかを。カネがあるのであれば、モウリーニョでもアンチェロッティでも連れて来れる。それでもどうして彼らなのかははっきりさせておかねばならない。
期待とノルマが大きすぎると、監督はそれに応えられない。
――その通りです。名前だけで決めるべきではない。
オシム:体制が揃っているのであればいい。多くの人々は日本は環境もよく、高いレベルの監督を受け入れる素地も整っていると思っている。まずはどういう人物であるかをよく知る。そこから本人と直接コンタクトを取って、実際にどうであるのかをよく理解すればいい。対話をして、野心がどこにあるのか、どんな考え方をするのかを理解する。
――そうですね。
オシム:とりわけ自分たちのチームがどうであるのか。何を提供できるのか。そして彼に何を期待するのか。もちろん最終目標は世界チャンピオンになることだ。ではそこに至るまでにどんなプロセスを思い描いているのか、そのプランがどうであり、具体的にどんな選手たちがいるのかを示す必要がある。
名前で選ぶのは簡単だが、本当に適任者であるのかどうかを見極めるのはずっと難しい。協会の野心と人々の野心――民衆やメディアは何を望んでいるのか。というのもそれらのすべてを容認できない監督もいるからだ。期待とノルマが大きすぎると、監督はそれに応えられない。そうなると簡単ではない。
野心と自分たちの置かれた状況、取り得る手段との間にバランスを取る。チームのレベルはどの程度でどんな選手がいるのか。予選の対戦相手はどこになるのか。実際に目的を達成しようとすると様々な要素が絡んでくる。言うは簡単だが、具体的に実行するのはそう簡単ではない。