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多くの球数が本当に必要なのか?
前田健太に見る「投げ込み」の意味。 

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byNaoya Sanuki

posted2011/01/22 08:02

多くの球数が本当に必要なのか?前田健太に見る「投げ込み」の意味。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

最速152kmの速球と試合で100球を超えても速球を投げ続けられるスタミナは、「投げ込み」ではなく、高校時代から欠かしたことが無いという「走り込み」で培われたものだという

100球以上の投げ込みをしてこなかった沢村賞投手!?

 昨年の春季キャンプで、そんな風向きを変えるかのような情報を目にした。キャンプ中、投げ込みに関する興味深いコメントを自身のブログに書き込んだ選手がいたのだ。

 昨シーズン、セ・リーグの投手部門を総ナメにした広島の若きエース前田健太である。彼のブログ『じゃけん まえけん 頑張るけん!!!』にはこう記されていた。

「プロに入って初めて ピッチング練習で100球以上の投げ込みをしました」

 プロ入り4年目にして練習で100球を投げ込んだのが「初めて」というのである。

 前田健は名門校出身、甲子園でもバリバリ投げていた男である。力投派とも知られる彼は、てっきり投げ込み至上主義を貫いているのかと想像していただけに、そのブログの告白には驚かされたものだ。

「何のために投げ込みをするのか、僕は意味を見出せないんです」

 だが、このブログにはちょっとした脚色が行われていた。

 シーズンオフ、前田健にこの日のブログについて聞く機会があった。プロに入って初めて100球を投げたという告白を意外に思った、と。すると彼はこう教えてくれた。

「僕は投げ込みをするのはあんまり好きじゃないんです。(ブログには)100球って書きましたけど、あれは、チームの体制も変わって練習をしようという雰囲気の時だったんで100球をクリアーしようと思って投げただけでした。実際、ちゃんと投げたのは50球くらいで、後は軽く投げていたんですよ」

 さらに、聞いた。

 多い球数の投げ込みを必要だと思わないのか、と。そうした風潮をどう捉えるのか、と。

「何のために投げ込みをするのか、僕は意味を見出せないんです。投げ込めば投げ込むほど何かが良くなるならいくらでも投げますけど、そうではないので。僕は普通でいいんじゃないかな、と。もちろん投げ込みたいという人もいるし、それぞれの意見もあると思う。ただ僕の場合は、投げない方がシーズンにうまく入れる。特に投げ込まなくても、肩のスタミナには自信あるし、フォームを固めるために投げ込みが必要だと言われますけど、オフで1、2カ月空いたくらいでフォームを忘れるとか、何百球を投げないと思いだせないような、やわなフォームはしていない。調整する方が大事だと思いますから、投げ込む必要はないと思っています」

 まさに、目からウロコが落ちるとは、このことである。

【次ページ】 新人投手こそ投げ込みより身体づくりを優先させるべき。

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