セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
不味いメロン。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byMutsu Kawamori
posted2008/07/22 00:00
夏のイタ飯の定番である「生ハムとメロン」。調理を必要とせず、素材をスライスしただけのシンプルな“食”は、素材の良さが究極の味を生み出し、世界中で愛されている。ボールを走らせる、という単調な動きでありながらスペクタクルなスポーツであるサッカーは、そんな「生ハムとメロン」に似ている。イタリア代表は素材(人材)の良さと実績において、天下一品の「生ハムとメロン」といえよう。
W杯ドイツ大会での既存戦力をベースに欧州選手権(EURO2008)に挑んだアズーリだったが、“食感”は実に悪かった。決定的瞬間に精度を失ったFWトニは出来損ないのメロンに等しかった。美味しさを先決とするならば、トニを外してFWボリエッロという新素材に潔く切り替えるべきだった。ところが、ドナドーニ“シェフ”は「トニ・メロン」に執着。自信を持って自ら仕入れたボリエッロの品質を不安視して、使うことさえも拒んだ。同大会のグループ予選で323分間出場し、3ゴールを叩き出す実績を残した「熟成インザギ」を捨ててまでもボリエッロを選んだ理由は当然あるのだろうが、新素材を試そうという気が最初からないのなら、優れた得点嗅覚を備えた「インザギ・メロン」を厨房から取り除くべきではなかったのだ。
生ハムはメロンだけに限らず、いちぢくとも相性が良い。アタッカーをメロンに喩えれば、いちぢくにあたるのがセカンドストライカーのFWディ・ナターレ、FWクアリリャレッラ。メロンのような涼感(シャープさ)はないが、不味いメロンより断然良い。しかしながら、“シェフ”は出来の悪いメロンをいちぢくと一緒に並べてしまったから、イタリア産の「生ハムとメロン」は消化不良を誘発した。
毎試合が正念場の欧州選手権では一度のミスでも致命傷となる。ミスと言い訳を連発したFWトニのように勝負に対する甘えは勝利を信奉する他の選手に害をもたらし、内乱の火種が随所で見られた。こうしてドナドーニ監督の優柔不断な戦術が、2年前のワールドカップでは死角さえなかったイタリア代表を奈落の底に突き落とした。
内容の悪さ以上に、選手編成に手落ちがあったとして伊サッカー協会はドナドーニを更迭。2年前に世界一の呼称を授かったリッピ氏がイタリア代表監督に復帰した。名将は就任会見にて「戦力は18歳から40歳までの力のある選手」と選手の年齢制限に幅をもたせ、品質重視を言及した。
銀髪“シェフ”の手腕に大きな期待を寄せたいところだが、近年のイタリアは有能なメロンの品薄状況にある。その弱点を埋めるにはスピードとテクニックに加え、得点力を併せ持つ「いちぢくたち」を活かすポジションの探求とブラジル人FWアマウリ(ユベントス所属)のイタリア帰化だろう。
新体制で巻き返しを期することになったリッピ監督は、初陣にあたる8月20日のオーストリアとの親善試合に備えて、この夏はメロンの品定めに余念がない。