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From:ハノイ~東京「スコール。」 

text by

杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2007/07/19 00:00

From:ハノイ~東京「スコール。」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

とてつもなく暑いハノイで救われるのは夕方の突如の大雨。

だが、道路は冠水し、バイクなどは立ち往生する。

大雨のなか空港へ行き、久しぶりに帰った東京は、涼しかった。

 スコール。ハノイ暮らしの中で、それは快適さを実感できる最高の瞬間だ。夕方になると、ほぼ2日に一度の割合で、大きな雨粒が火照った身体を心地よくくすぐるのだ。

 日中の気温は、連日35度を軽く超える。湿度も極端に高い。不快指数が限りなく100に近い数字を示しているその時に、突如、空から雨がシャワーのように降ってくるわけだ。僕のような雨好きでなくても、救われたような気持ちになること請け合いだ。

 「雨は人類の命」(前号参照)という言葉に、大いに納得させられる瞬間でもある。だから僕には、気がつけば、ふと上空を見上げる癖がついてしまった。積乱雲が広い空のどこかにできていないか、期待に胸を膨らませながら、目を配っている。

 ハノイの市街地は本日も、薄暮の夕方7時頃から激しいスコールに見舞われた。僕は雨が小やみになった頃、タクシーに乗り込んだのだが、そのリアシートの窓越しから、雨水が道路を冠水させる光景を、あちこちで確認することができた。

 中には通行不能状態に陥りそうな箇所もあった。エンジンに水を被ったバイクが、至る所で立ち往生していた。そんな中、僕を乗せたタクシーは、強引に前へ前へと進んでいった。エンジンを激しく吹かせながら。そうしないと道路に貯まった雨水が、マフラーを通じて、エンジンに入り込んでしまうからだ。

 思い出すのは、86年メキシコW杯の1次リーグ、レオンという街で行われた試合後の話だ。突然降り出したスコールで、スタジアム周辺の道路は、膝頭付近まで冠水。身動きできない状態に陥った。さあ、どうしようと、困っているその時に手を差し伸べてくれたのが、付近に住む住民で、彼は自らの自家用車に、日本人記者数人を乗り込ませた。

 だが、車内には水が遠慮なく入り込んでくる。座席付近まで水に浸かったので、我々は箱乗り状態を余儀なくされたが、そんなことより心配なのは、彼の車そのものだった。エンジンを吹かせるだけ吹かしながら、車は水没した道路の上を果敢に走る。目的地であるバスターミナルまで、我々を無事運ぼうと、必死に頑張ってくれた。

 結局、彼の車は健闘空しく息絶えた。エンジンに水が入り込み、ウンともスンとも言わなくなった。我々は何とか、バスターミナルまで辿り着くことができたが、あの時のスリルは、いまもって忘れることができない。彼の親切心も、またしかり。「修理代を払うから」と、こちらが申し出ても、彼はかたくなにそれを拒んだ。

 それから21年経っても、恐縮する気持ちに少しも変わりはない。究極のホスピタリティ精神とは、このことを指す。

 ベトナム人に、訪れた人をもてなす精神がどれほど高いかは定かでない。しかし、僕を乗せたハノイのタクシードライバーは、テクニックをいかんなく発揮し、窮地を脱することに成功した。路肩で憮然と立ち尽くすバイク野郎たちを尻目に、無事、ハノイ空港まで送り届けてくれた。

 もちろんチップは弾みました。別れ際に、2万ドン札をスッと手渡した瞬間の、ドライバーの笑顔が印象に残る。

 ちなみに2万ドンは日本円にして約140円。

 それはさておき、街が冠水する中を、僕がなぜ空港に向かったかと言えば、帰国するためなのであります。ハノイの暑さにうんざりしたから。試合内容に落胆したから、ではありません。これはあくまで既定路線。

 ハノイ〜関空〜羽田。

 東京の自宅には、午前9時には到着した。

 「日本は快適。涼しいよー!」

 僕はハノイにいる取材仲間に、すかさず「スカイプ」で日本の様子を報告。続いて、次回の出発便の予約を入れた。

 なにを隠そう、僕は再びハノイに出向くつもりだ。できれば準々決勝から……と思ったが、結局、予約は取れずじまい。よっていまは、準決勝以降を観戦する予定でいる。もちろん、日本がそこに勝ち進めば、という条件付きになるが。

 はたして、豪州戦の結果はいかに。緩い試合を3試合続けた日本に対し、豪州は絶望の淵からはい上がってきた。ベトナム戦の反動が気になる日本に対し、豪州には、W杯で掴んだその自信がある。僕はまったく五分だと踏む。日本のステディさが勝るか、豪州の破壊力が勝るか。

 少なくとも、ハノイの街と、あのスコールが、雨好きの僕を、暑くてもへこたれない僕を、しきりに手招きしているような気がして仕方がない。強力な磁石で、引き寄せたがっている様子なのだ。つまり、日本代表には強烈な追い風が吹いている。頑張れニッポン!監督もジーコではないわけで……。

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