レアル・マドリーの真実BACK NUMBER
乱れ飛ぶ噂、銀河系軍団の再建計画。
text by
木村浩嗣Hirotsugu Kimura
photograph byGetty Images/AFLO
posted2006/03/28 00:00
サラゴサと引き分け、9試合を残してバルセロナとは13ポイント差(3月22日現在)。3シーズン連続無冠はもう完全に現実だ。ロスタイムに相手キーパーがこぼしたボールをロナウドが押し込んで得た勝ち点1を、まるで偉業のように喜ばざるを得ないほど、内容の乏しいゲームだった。ロペス・カロの選手起用は裏目に出続け、ロナウドが現れたのは最後の瞬間だけ、ラウールはスペースを創るだけ、バプティスタとグラベセンは危険な中盤でのドリブルでボールを失い続け、ボランチ・ベッカムはワンタッチで前を向く技術が無く、ロベルト・カルロスの背後は依然としてバーゲンセール状態……。
プレーを分析すれば、(1) ベッカムとグラベセンに協力関係の不在(一方がボールを持ったとき、他方はただ眺めている)、(2) 3人以上のコンビネーションプレーが皆無(「ドリブル突破」⇒「壁パス」が唯一のパターン)、(3) ボールの無いところでのランがあってもパスが出ない(そのうちラン自体が消える)、(4) カウンターの危険があるのに、ボールを失った瞬間にプレスに行かない(「守る人」と「攻める人」が分断)──と、チームプレーへの意識の低さが至る所に出ていた。何となくタレントだけでサッカーをやっているんだろうなぁ。
とはいえ、メディアもファンの関心は、現在や過去ではなくすでに「未来」に移っている。来季からの再建計画の噂をまとめてみた。
■新監督:ミランと契約更新もアンチェロッティ説は消えず
ロペス・カロの今季限りは本人も承諾済み。ベニテス、モウリーニョ、ベンゲル、カペッロ、アンチェロッティと次々と名前が出ては、「レアル・マドリーの関心」⇒「『光栄だ』という監督の好反応」⇒「条件アップで契約更新」⇒「やっぱり残留」というプロセスを経て消えて行った。言わなきゃいいのに「ここ数週間で新監督が決まる」とぶち上げた新会長フェルナンド・マルティンには手持ちのカードが切れたかに見える。が、ここに来て「もう監督は決まっている」と発言。またもや憶測が飛んでいる。デル・ボスケを推す声のほか、「アンチェロッティだ」と断言するメディアもある。監督選びは本来、スポーツディレクターのベニート・フロロの仕事のはずだが、彼が選んだのは現ヘタフェ監督で往年の名プレーヤー、シュスター。選手としてはともかく監督としてのネームバリューと実績に欠け、新会長のお気には召さなかったようだ。
■フロント:カマーチョ、デル・ボスケ、イエロ?フロロ退団は決定的
監督選びが自分の頭越しに行われるのを見て、「フロロ今週辞任」の噂が出たが、本人が打ち消した。現実になっていれば12月に辞任したアリゴ・サッキとまったく同じ道を歩むところだった。それでも「今季限り」は動きそうもない。前職で現副会長のブトラゲーニョも「先のことはわからない」と微妙な発言をし、やはり退団が決定的とされている。新会長、新監督となればフロント刷新が道理か。後任として名が出ているのは、新会長お気に入りのデル・ボスケ、カマーチョ、フェルナンド・イエロに加え、フロロお薦めのピリ、ミッチェルのOB陣。とはいえ、これは新監督の人選で大きく変わるとされている。たとえば、アンチェロッティ就任ならカマーチョ就任は無いという(2人の過去に何があったかしらないが)。いずれにせよ、新監督の好みは反映されそうだが、フロントはクラブ生え抜きや出身者で固める方針のようだ。
■会長:選挙でソシオ(会員)の信を問うべきか?
実は、新会長の足元も揺らいでいる。クラブの内規によれば、「会長辞任」⇒「理事による投票」⇒「新会長が任期を引き継ぐ」という手続きに誤りは無い。全会一致で選ばれたフェルナンド・マルティンの任期は、次回の選挙がある2008年までとなるはずだ。が、「合法的な会長ではない」とソシオ(会員)が直接選んだ人物でないことを道義上非難する声が、カーラリーのドライバーとして国民的ヒーローであるカルロス・サインツや前会長ロレンソ・サンツらから出ている。熱狂的なレアル・マドリーファンで、若くスター性のあるカルロス・サインツは次回の会長選挙に打って出ることは確実。問題はその時期だ。今季終了後なのか、それとも2008年なのか。
フェルナンド・マルティンは「選挙はクラブのためにならない」と安定が再建の第一歩だという考え。その上で、囁かれる“前会長フロレンティーノの操り人形説”を否定している。先日デル・ボスケやカマーチョらと会談したという報道があったが、これは前会長時代には有り得なかったこと。新会長が独自の裁量権を握っている証拠だと思うがどうか。いずれにせよ、新フロントと新監督が決まった後に会長選挙では、不安材料が多過ぎる。信を問うのは来季の結果が出てからでも遅くない。
■選手:アドリアーノ、レジェス、クリスティアーノ・ロナウド……
実は、このセクションが今一番静かだ。だいたい新監督、新スポーツディレクターが決まる前に新加入選手の名が出る方が間違っている。「選手」(会長の我ままで)⇒「監督」(事後承諾)の順でこれまで何度も失敗しているではないか。その点、先月から今月にかけて目の前でたった2試合大活躍しただけで大騒ぎされたセスク(アーセナル)の例は、滑稽だった。
前述のフロロ文書には、さすがに「レアル・マドリーが目指すサッカースタイル」⇒「それに相応しい監督とフロント」⇒「そのため必要な選手」という順番で言及されていたという。名前が出ていたのは、アドリアーノ(インテル)、レジェス(アーセナル)、クリスティアーノ・ロナウド(マンチェスター・ユナイテッド)、ジェラードとシャビ・アロンソ(リバプール)、カニ(サラゴサ)と報道されている。が、これは明らかにおかしい。またもやアタッカーばっかりでディフェンダーがいない。『カペッロ、ジェラード、イブラヒモビッチがレアル入り?』(1月25日付)でも紹介した“マスコミ辞令”ではないか。退団者の方は、ロベルト・カルロス、ロナウドらの名前が出たが、こちらも続報は無い。以前ならロペス・カロの采配ぶりをチェックしていれば済んだが、彼の退団が決定するのと同じくして日替わりの選手起用が始まり、まったく予想ができなくなった。すべては新監督待ちだ。
フェルナンド・マルティンは選手選考の指針だけは示している。「若い選手で育てることができること」、「個人よりもチームワークを優先できる選手」と。この規準で言えば、あのサラゴサ戦でプレーした選手のうち残るのは、ほんの一握りということになるが……。