カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER

From:サラエボ「サッカー好きのオヤジ。」 

text by

杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

PROFILE

photograph byShigeki Sugiyama

posted2007/01/17 00:00

From:サラエボ「サッカー好きのオヤジ。」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

サッカーゲームの進め方を学ぶとき、現日本代表監督との談義は、

非常に参考になる。無意味に絶賛するつもりはない。だが面白い。

なぜならサッカー好きのオヤジが綿密に考えていることだから。

 だから、オシム万歳!とは、簡単には言いたくないのだけれど、オシムは簡単には文句が言えないサッカーをしている。困ったことに。来年は、厄介な1年になりそうだ──という、前回の締めの部分の原稿を受け、さっそく僕は「厄介な1年」の初頭を飾るべく、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボにやってきた。目的はズバリ、この街生まれの現日本代表監督インタビュー。

 なにを隠そう、僕は照れ屋さんだ。へそ曲がりでもある。会話の際に、自分の思っていることと全く違うことを、とりあえず返してみることがしばしばある。素直にハイそうとは、言いたくない性分なのだ。だから、オシムにはいっそう親近感を抱いてしまう。

 こちらの質問に対し、彼はまず、エッと驚くような言葉を返してくる。必ずだ。YESを期待していると、NOと言ってくるわけだ。しかし、話が進むうちにそのNOは、いつしかYESに変わっている。二重否定などを巧みに取り入れながら、最初とは180度異なる方向に、気がつけば話を進めている。笑いを取ろうとする癖もある。通訳さんは大変だ。実際、テープ起こしは簡単な作業ではなかったが、綺麗に起こしてみると、希に見るサッカー大好きオヤジであることが、手に取るように伝わってくる。

 見習わなければいけない芸当だ。僕がオシムと同じ年齢になったとき、あのような話術で、相手を黙らせることができるだろうか。

 それは自信の裏返しに違いない。実際、作戦版を使いながら戦術を説明する姿は、教え魔と化していた。「だからキミ、こうだろ!これがサッカーの原則だ!」と、自信満々に自説を披露した。

 だが、僕にとってこれは、オシムが初めての経験ではない。これまでに何人もの外国人監督から、サッカーゲームの進め方について、レクチャーを入念に受けている。名監督と言われる人物ほど、論理は明快だった。

 この職業に就いた幸せを、実感する瞬間であることは言うまでもない。少なくとも僕にとってはという話になるが、とはいえ理屈を知れば、サッカー観戦がより楽しくなることは確かである。観戦を楽しむためのヒントが、その理屈の中には満載されている。簡単に飽きはこない。見れば見るほど、ゲームに対する興味は膨らむ。机上の空論なんかでは決してない。

 日本と欧州との、これこそが決定的な差だと僕は思う。サッカーゲームの進め方について、日本のファンの知識はまだまだ低い。選手のプレイのレベルよりも明らかに。言うならば、いまは独自の見解が、錯綜している状態にある。

 オシムは時間があれば、いくらでも説明する用意があると言った。語りたがっている様子が、ありありと見て取れた。彼を活かさない手はない。耳を傾けるべきは、彼の人生訓ばかりではない。もちろんその理屈について、賛否両論分かれるだろうが、自分の意見はその話をキチンと聞いた上で、持ったほうがいい。中途半端はまずい。でないと、ジーコの時代に逆戻りすることになる。無口は混乱の元。

 ジーコに限らず、日本にいる監督さんは概して無口だ。自信がないから無口なのか。本来寡黙な性格だから、サッカーゲームの進め方についても無口なのか。相手に知られてはまずいから、あえて無口を貫くのか。あるいは誰も聞きに来ないので、喋る機会を逸しているのか。しかし、それではファンのレベルは上がらない。サッカー界は面白くならない。

 S級ライセンスの講義の中には、記者会見の進め方という一項があるらしいが、それはどんな内容なのか。当たらず障らずだとしたら本末転倒だ。どうしたら日本のサッカーを盛り上げることができるか。それを意識した記者会見であって欲しい。そしてその講師には、サービス精神旺盛なオシムが、うってつけだと僕は思う。たぶん、通訳泣かせだと思うけれど。

#イビチャ・オシム

海外サッカーの前後の記事

ページトップ