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多村仁 危険なホームラン王。
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
posted2007/05/03 00:00
多村仁の才能と実力を語るとき、どうしても「怪我がなければ……」という枕が付きまとう。走攻守と3拍子揃い、'04年に40本塁打を放ち、WBCでも5番を任されたことから日本で一番トリプルスリーに近いと評判だ。が、いかんせん故障が跡を絶たない。
横浜時代、スタメンに定着しはじめた'03年は左手親指の靱帯断裂、好成績をあげた'04年は相次ぐ肩と腰の故障、'05年には右肘を痛め、昨年は左肋軟骨を挫傷すると、さらにホーム上のクロスプレーで肋骨を4本折る重傷を負いシーズンの大半を棒に振ってしまった。
「昨年は全部勝つつもりで、すごく張り切ってはいたんですが、逆にそれが……」
そして今年、多村は新天地となる福岡へ。
「どんなときでも120%の全力プレーが僕の身上ですし、怪我を恐れてパフォーマンスを抑えるようなことだけはしたくないんです。だから絶対に怪我をしないとは言い切れない。ただ、優勝するために、またファンがいつ来ても球場に必ずいる義務はあるはず。もう骨でも折れない限り、痛みなんかはガマンしてグラウンドに立っていたいんですよ」
そんな思いを胸に、王監督を胴上げすることと、自身初となる「全144試合出場」を公言していた多村は、開幕戦で2本の本塁打を放ち、翌日には決勝打を決めお立ち台に上がるなど、移籍早々ファンの心を掴んだ。さらに開幕10試合10打点と期待に応える。
だが、やはりというか好事魔多し。4月4日の試合で走塁の際に左太もも裏に硬直を覚え途中交代。翌日は代打で出場するものの、その後2試合欠場し、目標はあっけなく途絶えてしまう……。
それでも王監督は多村について「本当は(出場選手登録を)外そうと思ったけど、本人がどうしてもベンチにいたい、チームと一緒にいたいというので」と、熱意に理解を示した。
怪我に弱いといわれた男は、ここ博多でガラスのボディを脱ぎ捨て、日本一の夢を見る。WBCで味わったあの歓喜よ再び、と。