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野球日本代表24の証言。
text by
渕貴之Takayuki Fuchi
photograph byKosuke Mae
posted2008/08/07 18:49
代表発表を受けての会見で、「命を懸けて金メダルを取りにいく」と誓った。それは24人のなかでも異色のコメントだった。
あらためて西岡が戦う理由を問えば「そら国のためですよ」と迷わず答える。
「僕は五輪はお祭りではなく、国と国との戦争だと思ってる。試合が終われば互いに健闘を讃えるのが礼儀やと思うけど、試合中はやっぱり戦争だと思うので、死ぬか生きるかの戦いをしたい」
それほどまでの強い思いはどこから湧き上がるのか。
「ほかの国はゲッツー崩しのスライディングひとつとっても、ショート、セカンドの足を潰すくらいのプレーをしてくる。日本のシーズンでもそういうプレーはありますけど、国際大会ではどんな場面でも相手を怪我させようくらいの気持ちでくる。だからこっちも命張らないとそれをかわすことができない。僕がランナーになっても、相手が次の日から試合に出られなくなるようなスライディングをしていきたいですね」
“楽しみ”という気持ちは一切ない。
「いま、野球やってて初めて怖いと感じています。日の丸を背負っていくことに怖さを感じる。選ばれた瞬間も、嬉しさ100倍、怖さ1000倍。アテネの時にプロの連中が負けて涙してるのを見て、これはただ事じゃないと感じたんです」
そんな西岡は北京でどんなプレーを見せてくれるのか。
「特攻隊でいきたいですね。選ばれたときに、前に高橋慶彦さんに連れて行ってもらった知覧を思い出したんです。あの魂を僕らは受け継いでいると思うので、ホンマにそういう気持ちでいきたいですね。
チームでの役割にもこだわりはないです。打順もポジションも任されたところで特攻隊としていきます。ベンチであっても、デッドボールがあったら、乱闘しにいくかもしれません。前代未聞くらいの(笑)」
石塚隆=文
text by Takashi Ishizuka
代表発表の直後に開かれた会見の最後、阿部は記者団にピシャリと言い放った。
「まだシーズン中です。8月2日になったら代表としていろんなことに答えますから、ジャイアンツのユニフォームを着ている時は、オリンピックの話はなしにしてください」
厳しい面持ち。ほかの代表選手が声を弾ませる場面にもかかわらず、この冷静さ。波に乗れない巨人の状況を鑑みてか、あるいは傍らにいた上原浩治を気づかってなのか……。
「シドニーの時は学生で、正直、プロの人に頼っていた部分があり、自分の力を出しきれなかった。けれど、今回はプロとして行きます。想像を絶するようなプレッシャーはあると思いますが、選んでいただいた皆さんに恩返しをしたい」
4位と惨敗したシドニー五輪を野手として知るのは、今代表では阿部のみ。これから挑む戦いが、どれほど厳しいか知っているからこそ、阿部はその想いを胸に秘める。
河崎三行=文
Sangyo Kawasaki
アジア予選での出場機会は少なかった。それでも荒木は自チームの戦いぶりを見ながら、今までにない感覚に襲われていた。
「ベンチに座っていながらドキドキしたんですよ。あれは今までなかった経験でしたね。負けたら終わりっていう、高校野球での緊張感に似ていました」
発表された北京五輪代表メンバーを見て彼がまず思ったのは、外野手の登録人数が少ないということ。
「もともと僕が中日でレギュラーになったのは、センターとしてなんですよ。だから北京では本職のセカンドだけじゃなく、外野で起用される可能性もあるでしょう。あるいは1点を争う場面での代走として声がかかるかもしれない。どんな状況でも監督に『行け』と言われればすぐに応えられるよう、できる限りの準備はしておくつもりです」
外野用グラブも新調してある。すぐに試合で使えるよう、柔らかい革で作られたものだ。
(残る21人の証言は、Number709・710号へ)