濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER

安納サオリ「見たら惚れさせる自信はあるので」人気女子レスラーはなぜスターダムでも埋もれなかったか? 新王者の決意「世間との架け橋に」 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

PROFILE

photograph byEssei Hara

posted2024/01/20 11:01

安納サオリ「見たら惚れさせる自信はあるので」人気女子レスラーはなぜスターダムでも埋もれなかったか? 新王者の決意「世間との架け橋に」<Number Web> photograph by Essei Hara

2度目の挑戦でスターダム“白いベルト”王者に輝いた女子プロレスラーの安納サオリ

MIRAIが使った“普通の技”の意味

 そんな安納とMIRAIだから、試合は噛み合った。両国での2戦目、印象深かったのはクライマックス直前にMIRAIが出した技だ。ダイビング・クロスボディ=コーナー上からのボディアタック。ミル・マスカラスの必殺技と言えばオールドファンにも伝わりやすいか。

 今は使う選手も多く、そのためフィニッシュにはなりにくい。言ってしまえば“普通の技”。MIRAIはそれをここぞという場面で使い、勝機を引き寄せようとしたのだ。

「そういうプロレスが好きなんです。場外戦とか危ないことをやれば痛みが伝わりやすいし見てる人も沸くと思うんですけど、私は“感情”を伝えたい」

 昨年夏のシングルリーグ戦でも、できるだけ場外戦を避けていたというMIRAIの評価は、ベルトを手放しても落ちていない。むしろキャリアを10年、20年と重ねるごとに価値が高まるプロレスをしているのではないか。それこそブランド品のように。

レジェンドから教えられた技で

 MIRAIを下したのは、安納が初披露した技だった。しかしそれは“新技”ではなかった。ジャパニーズオーシャン・スープレックスホールド。相手の腕を後ろ手に固めての変形ジャーマンスープレックスは、“飛翔天女”と呼ばれたトップ選手・豊田真奈美(2017年に引退)の技だ。安納は豊田から直々に、ジャパニーズオーシャンを伝授された。

「私がデビューしたての頃から、お会いするたびに“安納のブリッジは本当にきれい。私が現役の時に似てる”と言ってくださって。3年くらい前に人づてに“ジャパニーズオーシャンを伝授したい”と連絡をいただいたんです。なかなか機会がなかったんですけど、今回のタイトル戦の前にお願いして教えてもらいました。本当に“ここしかない”という場面で出せましたね」

 MIRAIに勝つためには、初戦と同じ安納サオリのままではいけなかった。そこで決め手になったのが、女子プロレス史に残る技。加えてこの日は、所属するユニット「コズミック・エンジェルズ」のメンバーが揃っていた。長期欠場中の中野たむがリングで挨拶し、同じく負傷欠場しているなつぽいはセコンドに。

「2人がいない間ずっと頑張ってくれてる(水森)由菜も含めて4人全員が会場にいて、みんなが背中を押してくれた。だから前回よりも一歩踏み込んで闘うことができたんだと思います」

安納はなぜスターダムでも埋もれなかったか?

 観客からの“サオリ”コールを聴きながらベルトを巻いた時に何を思ったか。試合後に聞くと「覚悟」だと安納は答えた。豊田真奈美から技をもらい、仲間たちに支えられてMIRAIという好敵手に勝った。そうして掴んだベルトはスターダムの大看板の一つだ。スターダムは女子プロレス業界最大の団体であり、1年前の安納はそこに上がることもできていなかった。

【次ページ】 安納サオリ「見たら惚れさせる自信はあるので」

BACK 1 2 3 NEXT
安納サオリ
MIRAI
スターダム
中野たむ
舞華
なつぽい

プロレスの前後の記事

ページトップ