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「キャリア5年目でそんな偉そうなの?」それでもウナギ・サヤカがレジェンドから認められる理由…“400万円超”自主興行の参加選手もスゴい 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byNorihiro Hashimoto

posted2024/01/06 17:01

「キャリア5年目でそんな偉そうなの?」それでもウナギ・サヤカがレジェンドから認められる理由…“400万円超”自主興行の参加選手もスゴい<Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

ZERO1のリーグ戦「火祭り」にて、会場の子どもたちから声援を送られるウナギ・サヤカ

名場面となった、子供たちからの声援

 火祭りでは宇都宮大会、都内・芝大会と入場無料のイベントも。ZERO1の無料イベントには近隣の子供たちも多く訪れる。リングに駆け寄り、マットを叩いての応援もOK。ウナギの試合では、女の子たちが懸命に声援を飛ばしていた。

 試合を終え、ボロボロになったウナギがリングを降りるとそばに近づき、じっと見て、後ろをついていく。ウナギ・サヤカはウナギ・サヤカにしかできないやり方で、子供たちの心に何かを残した。2023年屈指の名場面だった。

「どうせ無理だとかできっこないとか、そういうことをみんなに言ってほしくないからプロレスをやってる」

 以前からウナギはそう言っていた。たくさんの団体に乗り込んでケンカを売りまくり、予想外のマッチメイクを実現させるのもそのためだと。ウナギの行動をメチャクチャで生意気だと捉える人間もいるが、実はメチャクチャで生意気なこと自体に意味があるのだ。

 男子選手との闘いを、たぶんプロレスというジャンルからもっとも遠いところにいる少女たちが見てくれたことは大きな出来事だった。ウナギは言う。

「私が知らなかった、プロレス本来の姿がこれなのかな。プロレスラーになってほしいとかじゃないんですけど、でも相手が男だろうとデカかろうと負けずに頑張ることに価値があるんだってことが伝わってたらいいなと。誰に何を言われても自分がやりたいことをできる人間になってほしい」

「ベテラン選手に対して憧れがない」

 公式戦2試合目では、新たな必殺技を得た。正確には勝手にもらった。対戦したのはZERO1を代表するベテラン・田中将斗。ウナギは大谷が使う袈裟斬りチョップを叩き込むと、田中のフィニッシュ技である走り込んでのエルボー「スライディングD」も繰り出した。あげく「スライディングTANAKA」と命名して自分のものにしてしまう。田中もなぜかそれを許した。

「ギャン期に入っての試合で、一番怖かったのが田中戦。たとえば井上京子は“オカンみ”あるから安心といえば安心なんですよ。何やっても受け止めてくれる。でも田中将斗とは信頼関係がまったくなくて。何されるか分からなかった」

 そんな試合で必殺技を増やしてしまうのだから、怖いのはむしろウナギだろう。井上京子は呼び捨て、ジャガー横田は「おじゃが」と呼び、田中将斗には「たこ焼きマン」というあだ名をつける。なのになんだか受け入れられている。

「おじゃが、私がキャリア5年目って聞いて驚いてましたね。“5年目でそんな偉そうな顔してんの?”って(笑)。それでも怒られないのは、ベテラン選手に対して憧れがないからじゃないですか。芸能の世界からプロレスに入ったので、もともとプロレスファンではなかった。そこがいいんだと思う。いや先輩だとは思ってますよ(笑)。でも変なリスペクトは壁を作るだけだから。それはいらないと思ってますね」

 火祭り開催中の7月には、爆破マッチでアジャコングとの初遭遇も。「なんでこの時期に」と思ったが、乗り越えたら怖いものがなくなった。火祭り最終日の後楽園ホール大会では、同じブロックで闘った選手たちが試合別限定カラーのウナギTシャツを着て集まってくれた。それも一つの成果だった。彼女は“お客さん”ではなかったのだ。

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