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藤井聡太15歳の発言に記者ビックリ…中学時代“いずれタイトルを独占する男“は何を語っていたのか「強くなった先にある深遠さを見ていたい」 

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北野新太

北野新太Arata Kitano

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photograph byJIJI PRESS

posted2023/10/15 20:20

藤井聡太15歳の発言に記者ビックリ…中学時代“いずれタイトルを独占する男“は何を語っていたのか「強くなった先にある深遠さを見ていたい」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

藤井聡太15歳のとき。いずれ将棋タイトルを独占する「天才」は当時、何を語っていたか

 前年10月、14歳2カ月の最年少記録でプロ棋士になった藤井は、同年のクリスマスイブに行われた加藤とのデビュー戦を勝利で飾ると、半年間にわたって勝ち続ける。20連勝を超える頃からは勝負の趨勢(すうせい)を国民全体が注視する事態になった。6月26日、第30期竜王戦決勝トーナメント1回戦で増田康宏四段に勝ち、公式戦29連勝の金字塔を打ち立てた時の狂熱は周知の通りである。

大人を超越していた…「言葉のセンス」

 普通の中学生なら重圧に潰され、自分を見失うのも当然の状況だが、藤井は周囲の喧騒などには一瞥もくれずに大人としての風格さえ備えるようになっていく。

 四段昇段時の会見で「棋士になった自分をまだ子供だと思うか、もう大人だと思うか」と尋ねた時は、まだ幼さを残す顔で「今はまだよく分からないです……」と笑顔を見せていたが、最近では、同じ問いに「もちろん未熟なところはありますけど、棋士として将棋を指すことや、終局後のインタビューにしても棋士としての責任があると思うので、自覚と責任を持って行動していきたいです」と語るようになった。

 対局後に「望外」「感慨」「僥倖」といった言葉を用いるセンスなど、もはや大人を超越している。11月、節目の50勝を挙げた時は「一局一局指してきたことがせつもくの数字になりました」と語った。「節目」に「せつもく」なる読み方があることを、取材する側が初めて教えられた。

「将棋に巡り合えたのは運命」

 折々のインタビューでは決して饒舌ではないものの、記者の質問に対し、将棋の局面を検討するように小考した上で、印象的な言葉を紡いできた。

「将棋を指すために生まれて来たかどうかは分からないですけど、将棋に巡り合えたのは運命だったのかなと思いますし、将棋を突きつめていくこと、強くなることが使命……使命までいくか分からないですけど、自分のすべきことだと思います」

「強くならないと見えない景色があると思いますので、そこに立てるように強くならなきゃいけないと思っています。将棋は奥が深いので、強くなっても、強くなった先にある深遠さを見ていたいです」

「絶望の表情」を浮かべるとき

 7月2日に佐々木勇気五段(現六段)に敗れて連勝が止まると、停滞期を迎える。10勝を積み上げる間に6つの黒星を重ねた。敗れた時にポーカーフェイスを貫くのは棋士の常道だが、藤井は対局後の感想戦に入ると、苦悶と絶望を表情に隠さず、自らを叱責するように高い駒音を盤上に響かせる。負かされて泣いた幼少期の頃と感情としては変わらないらしい。

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