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「もう1回やったら絶対無理」宇野昌磨はなぜ「一番ひどい」から世界選手権連覇できたのか? ライバルの一言と恋人・本田真凜への感謝

posted2023/03/29 17:01

 
「もう1回やったら絶対無理」宇野昌磨はなぜ「一番ひどい」から世界選手権連覇できたのか? ライバルの一言と恋人・本田真凜への感謝<Number Web> photograph by Asami Enomoto

フィギュア世界選手権で2連覇を果たした宇野昌磨(25歳)。怪我を抱えながらSP、FSともに首位、唯一の300点超での完全優勝だった

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野口美惠

野口美惠Yoshie Noguchi

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Asami Enomoto

「去年の世界選手権や、今年のGPファイナルは、あまり1位というのは意識していませんでした。でも今回は1位を意識していましたね。他の選手の演技を見ながら、やはりチラつく部分もありました。でも過去の経験を活かして、自分の気持ちのコントロールが出来た。それは、結果というものが、僕を支えてくださった人への恩返しになると思っていたからです」

 日本男子初の世界選手権連覇を遂げた宇野昌磨(25)。もともとは、「勝敗よりも、練習の成果を発揮すること」がモットーだった宇野の発言に、変化があった。連覇をつかんだ宇野が達した境地とは。

悲観と楽観が入り交じるなかで…

 日本開催の世界選手権(3月22~25日、さいたま)を前に、宇野は「今年一番ひどい」と自嘲するほどの不調に陥っていた。現地入りする1週間前に右足を捻挫し、痛みは回復したものの調子は戻ってこない。20日の公式練習後は、複雑な心境をそのまま口にした。

「もう目の前のことに必死で。跳べるイメージが湧いて来ません」

 そう悲観したかと思えば、達観したようなことも言う。

「この(不調の)中でやっていくしかないのかな、という覚悟を、自分の中で決めないといけません。今日までやってきた経験を生かす良い場面なので、自分でも『どうなるんだろう』と、楽しみでもあり、自分がどうするか興味深いところです」

 悲観と楽観が入り交じるような発言の裏には、こんな意味があった。

「やっぱり僕も(人前で)発言をする時は理想的なことを発言しようとします。でもどうしても落ち込んでしまったり、『できる気がしない』とか思ったりすることもあります。そうなっている時に、(周りの人に話して)改めて自分の考えを整理させてもらって、それがいつもの自分に戻れるきっかけになっているんです」

 つまり記者の前で、すべて口に出すことで心を整理させていた、というのだ。宇野流の心のコントロールだった。

公式練習で転倒・捻挫からのマインドセット

 公式練習3日目となる22日には、アクシデントが起きたが、そこからのマインドセットも見事なものだった。練習中、4回転サルコウで転倒した際に、痛めていた右足首を再び捻挫。「ひねった直後は『やばいな』と思いました」という。氷から起き上がれず、キーガン・メッシングの手を借りて立ち上がる姿からは、棄権の可能性さえうかがわせた。しかし、すぐに出水慎一トレーナーから手当を受けると、「色々なサポートのおかげで、想像よりはるかに少ない支障でした」と宇野。

 ステファン・ランビエルコーチもこう話した。

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