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異例の処分「柔道で減量失敗→代表はく奪」は“厳しすぎる”のか? 選手の“自己責任”だけが問題ではない背景「痙攣、生理不順などのトラブルも」 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byJIJI PRESS

posted2023/03/02 11:01

異例の処分「柔道で減量失敗→代表はく奪」は“厳しすぎる”のか? 選手の“自己責任”だけが問題ではない背景「痙攣、生理不順などのトラブルも」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

減量失敗→代表はく奪の日本初の事例となり注目を集めた増山香補

今回の処分は“後出し”ではない。ただ…

 まず前提として、今回の事態が起きたのを受けて全柔連内で一から話し合いがあり、処分が決まったわけではなく、先に記したように規定が設けられていた。それに沿っての処分であって「後出し」というわけではない。そういう意味では、ルールに基づいての処分であり、選手も規定を把握している。ただ、世界選手権という大きな舞台の代表を“はく奪”というのが大きなインパクトをもたらしたのも、ある意味、自然な反応の1つなのかもしれない。

 柔道に限らず、階級のある競技は、体重オーバーに対して厳しい視線が注がれる。ボクシングのタイトルマッチなどで体重が超過してタイトルマッチが成立しなかったときの反応から見てもそうだろう。規定通りの体重にするのは階級のある競技における責任でもある。だから全柔連も体重に関する規定を作っている。

 男子日本代表の鈴木桂治監督も、「この事態を重く受け止め、責任を感じています。日本代表としてあるべき姿ではないと我々も痛感しています。世界一を目指す選手として体重管理、コンディショニングは基本中の基本です」と語っている。この言葉にも、体重を管理する責任と自覚が込められている。

“減量失敗”はなぜ起こるのか?

 それでも、今回の事態は起きた。増山一人に限らず、これまでも起きていた。

 例えば2013年には、当時活躍していた岡本理帆が国際大会を棄権、強化指定から外れている。岡本は身長158cmで、そのときは48kg級にいた。その数字からしても減量は簡単ではなかったことが想像できる。2019年には東京五輪57kg級銀メダルの芳田司の妹であり、2018年世界ジュニア選手権銀メダリストの芳田真が体重超過で大会に出られず強化指定から外れている。減量というものが、選手にとって大きな課題であることがうかがえる。

 増山の場合、通常は100kgほど体重があり、大会の直前に一気に落とす方法をとっていたという。そのやり方は特殊ではなく、少なくない選手が採用しているが、それでも減量は簡単なことではない。

 柔道に限らず、10kgほど減量して出場している選手は決して珍しくない。

 リオデジャネイロ五輪レスリングのフリースタイル57kg級で銀メダルを獲得した樋口黎も減量と闘った1人だ。リオの後、体重の問題から61kg級、65kg級と階級を上げたが成績を残せず、東京五輪はもとの57kg級で目指すことを決意。10kgほどの過酷な減量を行って大会に出ていたが、代表には手が届かなかった。樋口もリオ前年の全日本選手権を体重超過で失格となったことがある。

 樋口のエピソードからも分かるように、減量が苦しくない階級にすれば、減量の問題からは解放される。でもそうすると成績が上がらないことは少なくないため、大抵の選手は厳しい減量をしてでも、本来の体重よりもかなり下の階級を主戦場とする。それがときに減量しきれない選手を生むことになる。

【次ページ】 けいれん、生理不順…過度な減量が起こす“トラブル”

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