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「藤井聡太さんに抜かれるのなら光栄です」最年少名人・谷川浩司が語る“藤井将棋”の完璧さ「気配りができるところも含めて…」 

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片山良三

片山良三Ryozo Katayama

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photograph byNanae Suzuki/Yuki Suenaga

posted2023/02/26 06:01

「藤井聡太さんに抜かれるのなら光栄です」最年少名人・谷川浩司が語る“藤井将棋”の完璧さ「気配りができるところも含めて…」<Number Web> photograph by Nanae Suzuki/Yuki Suenaga

インタビューに応じてくれた谷川浩司十七世名人。藤井聡太竜王の将棋について、どのように見ているのか

「藤井さんがどこかでコメントしているんですが、彼が考えている『25歳』というのが一つの目安になるのかなと思います。あと5年間は将棋に専念するんだという意思表示ではないかと、私はそのように受け取っていますが」

 この話を聞いて、競馬の武豊騎手がデビュー3年目の20歳のときに「ジョッキーとしての完成期はいつ頃になりそうですか?」と質問したことを思い出した。彼はそのことをすでに考えたことがあったらしく「実戦を1万回経験したときかな」と、ほとんど時間をかけずに答えてくれたのだが、デビュー16年目で1万回騎乗を達成(もちろん史上最速だった)したときに改めて尋ねると、「いや、あと1万回かな」と、即座に先延ばしをしたのだ。経験を積むことで、どんな難しい場面でも前に経験したことがある場面か、あるいは似たような場面となって、自然に正解が見えてくるのではないかと想像していたようだが、辿り着いてみたらまだまだ未経験の場面がたくさん残されていたということらしい。武豊騎手はすでに2万回騎乗もクリアしているが、未だに「完成した」という話は聞けていない。

将棋もそう。分かっていたつもりだったのに…

 谷川は、興味のはるか範疇外にあるはずの競馬の話を小さく何度も頷きながら聞き、「見たことのない景色が際限なくあとからあとから目の前に現れるということですよね。それはどんな世界でもそうなのかもしれないです。将棋もそう。分かっていたつもりだったのに、実は全体の少しの部分しか分かっていなかったんだなっていうことを、経験を積むことで分かってきたりします」と話した。

 十七世名人にして、この謙虚さ。本職としてきた将棋に真摯に向き合い、深奥を覗いた人だからこその心境なのだろう。

#2/「羽生将棋」編につづく)

谷川浩司(たにがわ・こうじ)

1962年生まれ、神戸市出身。5歳で将棋を覚える。1976年に史上2人目の「中学生棋士」として四段デビュー。1983年、史上最年少の21歳2ヵ月で名人位を獲得。タイトル獲得数は通算27期、棋戦優勝は22回。「光速の寄せ」で知られる。将棋に関する著書も数多く、2023年1月には『藤井聡太はどこまで強くなるのか 名人への道』(講談社+α新書)を上梓した。

#2に続く
「羽生善治さんとベストを尽くして良い作品を」数々の死闘を経て…谷川浩司十七世名人が語る“52歳の羽生将棋”「終盤は全盛時そのまま」

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