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元野球部の柔道二段…トランスジェンダーの“新人女子レスラー”エチカ・ミヤビとは何者か?「プロレスはどんな人間もウェルカム」 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byNorihiro Hashimoto

posted2022/10/12 17:01

元野球部の柔道二段…トランスジェンダーの“新人女子レスラー”エチカ・ミヤビとは何者か?「プロレスはどんな人間もウェルカム」<Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

9月14日、世羅りさ戦でデビューを果たした新人女子レスラーのエチカ・ミヤビ

 プロレスは男女の対戦も頻繁に組まれる世界だ。里村明衣子、山下りなは男子中心の団体でチャンピオンになっている(それが当たり前では決してないが)。スポーツでありエンターテインメントであるプロレスは闘いでありつつ相手にケガをさせたいわけではない。男女の対戦では体格差、パワー差が出るが、といってそれは「男が女を力まかせにブン殴る」といったものではない。プロレスは“見せる”、“伝える”ことに意味があるのだ。

 大きくて力のある選手が小兵のスピードとテクニックに翻弄されることもあるし、試合運びやインサイドワーク、観客の心を掴むといった要素に関してはキャリアが大きくものを言う。プロレスであれば“トランスジェンダーの女子選手”は成立するのだ。男女問わず試合をして各団体で活躍する“ジェンダーレス・プロレスラー”朱崇花という成功例もある。

「プロレスはどんな人間もウェルカムな、自由な世界」

 サイズとパワーだけでは勝てないことを、エチカはデビュー戦で実感したという。

「世羅選手と比べたら私のほうが身長で10センチ、体重でも5キロは上なので、試合前は“頑張れば何とかなるかも”と思ってました。でも実際に闘ってみたらタックルもエルボーもとにかく重い。世羅選手は私より軽いけど、その体重を全部ぶつけてくるんですよ。私は体格の優位を活かせてなかった。世羅選手のほうが体をコントロールできてたんですね」

 エチカが目指すのは、グラウンドも空中戦もできるオールラウンドな選手だという。あらゆるタイプの相手に対応したい、と。今の自分ではスピードのあるテクニシャンにかなり苦しめられる。そういう予測もしていた。

「160センチないような女子と180センチ以上ある男子が試合をして、それでもお客さんが喜ぶ、満足できる闘いになるのがプロレスだと思います。私自身“そういう世界なら”と思ってプロレス入りした面もあるので。プロレスはどんな人間もウェルカムな、自由な世界だなって」

当事者の本音「単純に傷つく言葉もあって…」

 プロレスの難しさ、奥深さ、あるいは特殊性。そうしたものを知っていれば、エチカの存在は(珍しくはあっても)否定するようなものではないと分かる。「でも、プロレスを知らない人が批判するのも分かります」とエチカ。

「それはそうなりますよ。トイレや入浴施設はどっちに行くんだとか、トランスジェンダーの問題全体を政治的に語りたがる人もいる。“私についてはプロレスの話なんだけど……”とも思うんですけど、それはそれでいいです。仕方ないですよ。でも単純に傷つく言葉もあって。それは見た目に関することですね。“ブス”とか“俺は抱けないな”みたいな書き込みがあるので。別に見た目でプロレスする気もないのに」

【次ページ】 エチカ・ミヤビが闘う理由

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