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「ちゃんとやってよ」イチローが甲子園優勝校・智辯和歌山に託した言葉「メーッチャメチャ、響きましたね!」《甲子園優勝校を生んだ伝説のひと言》
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/08/12 17:01
2021年夏の甲子園で優勝した智辯和歌山ナイン
「練習試合のときからずっと、ツーアウト一、二塁とか一、三塁になったら駆け抜けだぞ、という確認は怠ったことがなかったので、決勝のあの場面でもそのプレーは僕の頭にありました。僕としてはヒットを打つつもりだったので、(ショートゴロを打った)あの瞬間はさすがに宮坂、駆け抜けろとは思いませんでしたけど(笑)、走りながら宮坂のことは見えていました。ショートが一瞬、ボールを握り直したので、駆け抜けたときには『よっしゃあ』と思いましたね。僕たちは毎回、確認することだけは徹底的にやってきました。練習で誰かが確認を忘れたら『なんで確認しやんのや』って、みんなで注意し合ってきたんです。徹底力は僕らの強みかなと思います」
イチローさんのアレがでるか?って思ったら…
ところが二塁ランナーの大西だけはあの場面、宮坂が駆け抜ける可能性をイメージできていなかったというからおもしろい。
「あのとき、僕にその意識はなかったんです(苦笑)。いつもだったら一塁の宮坂とアイコンタクトを取って確認するんですけど、勝ちたい想いが前に出すぎてしまって、その意識もないままでした。ツーアウトだったので僕はボールがバットに当たった瞬間にスタートを切って、あとは必死に走っただけです。まさか宮坂が二塁を駆け抜けていたとは……最後の最後、ダメ押しの1点をもぎ取ったところでイチローさんのアレが出るか?って思ったら、こみ上げるものがありました。ホームインしてベンチに戻ったら全員がガッツポーズして、うわーって盛り上がっていましたね」
そして二塁を駆け抜けた宮坂は――。
「確かに大西とはアイコンタクトも取っていなかったし、僕も意識していたかと言われたら、無意識だった気がします。身体が勝手に反応したというか、それまでの確認や徹底が身体に染み込んでいたのかな。本当に何度も何度も確認してきましたから、なかなか決まらなかったあのプレーに対しては、イチローさんに教わって以来、絶対にやってやろうという気持ちが強かった。だから大一番で結果として出せたのは本当に嬉しかったですね」
この1点が入った瞬間、選手の誰もが「一番、喜んでいた」と口を揃えたのが中谷監督だった。