「甲子園で試合をするたびに成長したなって感じがしました。甲子園に愛されているというか、僕も感動しました」

　決勝戦を見届けると、兄はLINEを送った。

　＜夏に向けて頑張ってな＞

　しばらくすると、弟から返信が届く。

　＜ありがとう。頑張ります＞

　短い文句に悔しさが充満していることを、兄はすぐに察知した。いつもなら絵文字や感嘆符を添えてくる弟のこの簡素さこそ、元来の負けず嫌いが表現されているのである。

「相当、悔しかったっていうのがやり取りでわかったんで、『そっとしてあげよう』って。そこからは一切、LINEしてません（笑）」

　兄は弟から、言葉よりも大切なものをすでに貰っている。かつて見たことがなかった山田陽翔。その生き様に感化され、自分も大学で超えられなかった壁を超えることができた。

　それでも、まだ道の途中。

　いまだ大学のリーグ戦で登板がない兄は、現在地を10段階のうち「5くらい」と定めている。大学生活が折り返し地点を迎えても焦りはない。本格デビューを今年の秋、あるいは来年の春と見据え、コーチの辻と「しっかり土台を作っていこう」と鍛錬を積む。

「まだ無理してやる期間でもないんで。練習内容とか、ピッチャーとしての要領とかも掴めてきましたし、『こうすれば球速も上がるな』って感触も出てきたんで。そういうものを秋以降に出せればいいなって思います」

©Nippon Sport Science University

夏に待たれる“再戦”…「両方、応援します」

　また、熱き季節がやってくる。

　兄が雌伏の時を過ごすなか、弟はきっと、春と同じ場所に戻ってくる。

　忘れ物はただひとつ、日本一。

「弟が投げて勝つ試合を見たいですけど、陽翔だけじゃなくて他のピッチャーと一緒に勝ち上がるのを見たいですね、この夏は」

　頂上決戦の相手は、できれば母校がいい。

「またそうなったら面白いですよね。両方、応援しますけどね」

　嬉しそうに口角を上げ、笑みをこぼす。

　陽翔と大阪桐蔭による相剋の戦い。想像するだけで優太は奮い立つ。また限界を超えられると、胸を躍らせる。

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