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「怒らないコーチング」を日本のスポーツの常識に…女子バスケ代表・恩塚亨HCが掲げる「五輪で金」だけじゃない野望 

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宮地陽子

宮地陽子Yoko Miyaji

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photograph byAFP/AFLO

posted2022/04/28 17:01

「怒らないコーチング」を日本のスポーツの常識に…女子バスケ代表・恩塚亨HCが掲げる「五輪で金」だけじゃない野望<Number Web> photograph by AFP/AFLO

2021年10月のアジアカップで、バスケットボール女子日本代表を5連覇に導いた恩塚亨HC(右)

 代表選手たちの中には、シーズン中に所属しているチームとまったく違う恩塚流コーチングに戸惑いを見せる選手もいたという。

「選手たちは、はじめは違和感があった感じでしたね。『もっと怒ってください』みたいな感じのことを言われたこともあります」と恩塚は苦笑する。

 そう言ってきた選手には、「怒るのは悪意をもってよくないことをしたときだと思う。志を持って、やり方もちゃんと理解して、自分自身を持とうとしてやっているんだったら、怒る必要ないよね」と説明した。

 また、それをきっかけに、「怒らないと頑張らない」というアプローチについても、改めて考えてみてほしいという話もした。

「怒らないと頑張らないって、相手を馬鹿にしていませんか?」と恩塚。これはコーチと選手の関係だけでなく、選手間の関係にもあてはまることだ。

「『話せばわかるし、絶対伝わる。相手を信頼しよう。怒らないとわからないっていうのは、相手を信頼していないからじゃないか?』という話をしました」

 そういう話をしたあとに、チーム内の人間関係に変化があったとも言う。

信頼が生むエネルギーの大きさ

「先輩から後輩に向けての、責め心を持った指摘がなくなったっていうのは聞きました。それは信頼があるからですよね。そういう関係で、お互いを信頼しあってやっていこうぜって言えるエネルギーのほうが大きいんじゃないかなって考えています」

 選手ひとりひとりに、どんな自分になりたいかを聞き、チームとしてまとめる。お互いを信頼しあう。そういった人間関係を築くのは時間がかかることだ。活動期間が限られる代表チームでそれをやるのは大変ではないのだろうか。

「たとえば(去年秋、恩塚が代表HCに就任して最初の大会だった)アジアカップのときは、1カ月ないぐらいの期間でしたけれどできましたし、この人はこんなふうになりたいと思っているのを知っていると、人との付き合いになるので、感情移入もできるじゃないですか。

 そういう意味では、全体像を持って進んでいくっていう効率と、あとは人と人との繋がりっていう意味の絆を感じながら得られる相乗効果みたいな部分もある。まず、そういうところから入ったら、結果的にいいパフォーマンスになると思うし、人生が豊かになるんじゃないかなって気がしますね。僕らは勝つことが目標ですが、どんな自分になりたいかとか、どんな人生を生きていくかっていうことのほうが大事だと思うので。そこから逆算していったほうがいいんじゃないかと思います」

【次ページ】 金メダルと、もうひとつの目標

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